「逆所得政策」は世界の笑いもの

池田 信夫

日経新聞によると、「賃上げへ政労使協定」という構想が出ているそうだ。これはオランダが1982年に実施した所得政策「ワッセナー合意」がモデルだというが、ちょっと早い悪趣味なエイプリル・フールだろうか。


所得政策というのは、スタグフレーションの対策として賃金抑制のために行なわれる価格統制である。ところが今度の「政労使協定」は、官民で談合して賃上げしようという逆所得政策である。企業収益が上がっていないのに組合員の賃金を上げたら、非組合員が切られるだけだ。それを「雇用の流動化」と称しているが、そんな「流動化」を望む労働者がどこにいるのだろうか。

政府もようやく「デフレ」の原因が日銀ではなく賃下げだと気づいたのは一歩前進だが、賃金は企業収益の従属変数であり、それだけを上げることはできない。政府が強制したら、ワッセナー合意の逆に失業率が上がって、スタグフレーションが起こるだろう。

もちろん賃金を上げることは必要だが、それには近道はない。John Taylorもいうように、長期的には労働生産性を上げるしかないのだ。政府が「魔法の矢」で経済を一挙に復活させるというお伽話は、いい加減にやめてはどうだろうか。