シャープが生き残るために必要なこと --- 岡本 裕明

アゴラ

3月26日はシャープにとって特別の意味がある日です。この一年間、夢と希望とあせりと失望が入り乱れたその長い日々の一応の節目に当たるからです。一年前、台湾の鴻海精密工業と約束したのは低稼働率だった堺工場の権利を鴻海側に一部売却することとシャープ本体に9.9%の出資をしてもらうことでした。堺工場については鴻海の郭台銘董事長のポケットマネーで、そしてシャープ本体には鴻海の会社としての出資案でした。郭会長のポケットマネーのディールは直ちに動きましたが、本体への出資は待てど暮らせど展開せず、ついにその出資期限の3月26日を迎えたのです。


その間、市場はことあるごとに一喜一憂し、株価は乱高下を繰り返しました。なぜ鴻海側と話がまとまらなかったか、これはシャープと鴻海双方に落ち度があったと思います。結局縁談は相手の化粧が落ちる前に決めてしまうのが原則。引き出しの中身を詮索すると結局判断は鈍るということでしょう。

シャープを支える日本の銀行団のいらいらはつのります。ついには銀行団からの役員級の派遣を決定することになりました。これは重く受け止めるべきでしょう。つまり、シャープには任せておけないという決定であります。

しかし、私には遅かった気がしないでもありません。というのは銀行からの厳しい支援条件を押し付けられ闇雲に出資者を探したところに果たして十分な戦略があったのかどうかわからないのです。特にサムスンとの提携は鴻海を怒らしたのみならず、下手をしたら今後のビジネスのライバルにすらなりかねない危険なディールだったような気がします。また、クアルコムとはどちらかというと技術提携。おまけにクアルコムに鴻海の郭会長の影響力はありますから同社が今後の主たる支援メンバーになるとは思えません。

では、サムスンにそれを託するのか、といえばこれもおかしな話で同社も鴻海同様、日本の技術、ノウハウが欲しいという点で目的意識は同じではないでしょうか?

一方、シャープと銀行団はまず今年6月の3600億円の融資の更新、そして9月の2000億円の転換社債の償還を乗り切ることかと思います。そのためにはどうしてもフレッシュマネーがほしいところでそれゆえに大型増資も検討することになったのだろうと思います。ではその増資の受け手にサムスンが大きく貢献してもらえるのかは多分、当事者でも疑心暗鬼になっているのではないかと思います。

その間、言われて続けているのは経営権は誰にあるのか、ということでしょうか。社長と会長のチームワークが悪いのではという記事もありましたが、思うに社長は実務に追われ、液晶に詳しい会長が出資者を探すという色分けで作業が進み、結果として誰がこの会社を動かしているのか見えにくい、とみえるのでしょう。正直、私も上場会社の倒産を実体験していますので実務作業がどのぐらい大変か、その間、本業にはほとんど手がつかないというのは手に取るようにわかります。しかし、既に1年も中途半端な状態に置かれていては優秀な社員の流出は止まらず、会社の価値は下がってしまいます。

銀行団が乗り込み本気で建て直しを図るならシャープが本業の自信を再び取り戻すことが最優先です。社員あっての会社であり、どんな詳細な経営再建計画もそれをドライブする社員がいなければ絵に描いた餅に過ぎないということです。社長が銀行団への説明に追われる日々となればIGZOの開花も遅れることになるかもしれません。

新たなるステージに入ったシャープにはどうにか頑張ってしのいでもらいたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。