Game Deveolers Conference が開催中だ。後半3日間が始まり、インディペンデントゲーム開発者を対象とした約600本の投稿から受賞作が決まるIndependent Games Festival(IGF) やゲーム開発者の投票によって選ばれるGame Developers Choic Awards(GDC Awards)の受賞作のセレモニーが行われるなど、GDCが最も盛り上がる3日目が終了した。2万人規模のゲーム開発者が集まるだけあって、周辺のホテルやバーはゲーム開発者だらけで、私自身の宿泊しているホテルのロビーもバーが兼用のため、ものすごいお酒くさい。昼は講演、夜は果てのない飲み会が続くのは、毎年のことだ。
多くのセッションが相変わらず続いており、展示会も始まり、全体を追いかけるのは本当に大変だ。その中で、「GDC Play」というイベントに焦点を当てたい。これは昨年から始まったイベントで、インディ開発者にビジネス交渉の機会を作るためのイベントだ。出展料は高いのだが、30以上のブースが作られ昨年以上の盛況だった。専用のビジネスブースも設営され、関心のある企業とのビジネスミーティングもできるようになっている。そのなかで気になった3本のゲームを紹介したい。
■任天堂のアメリカ法人をやめて自分のゲームを作り始めた開発者
Paul Tozur氏(Intelligence Engine Deseing System)は、一人インディ開発企業だ。元々、任天堂で「メトロイド」「メトロイド2」「ドンキーコングJr.」などの開発経験を持つベテランの開発者だ。3年前に独立して、もっと、小さなチームでの開発を行いたいと起業したという。Tozur氏が開発したゲームは、リアルタイムストラテジーという、将棋のように駒を配置しあい、敵陣に攻め込んでいく「City Conquest」だ。この分野のゲームは、家庭用ゲーム機のインターフェイスになじみにくいために、一度は弱くなった分野だったのだが、タッチインターフェイスのゲームにはフィットしやすいため、再び人気を集めているゲームだ。
「iOS」「アンドロイド」のスマートフォン、タブレットに対応してすでにリリースされている。早速ダウンロードして遊んでみた。ゲームを遊んでみたが非常によくできている、無料で遊べるが。すべてのゲームを遊ぶには350円で買えるという方式だ。これだけ遊べて、この価格設定で大丈夫だろうかと、ちょっとだけ心配になってしまう。
「独立するときのリスクは感じなかったのか」と聞くと、とてもリスクを感じたという。そのため、あくまでフルタイムで開発するのは彼一人で、後はパートタイムで開発に参加してもらう形式をとっている。やはり、自分で理想とするゲームをつくるために、身を投じている典型的なインディ開発者だ。
■日本のゲームやアニメが好きな人たちなアメリカ人が作っているゲーム
明らかに、日本風としか言いようがないアクションRRG「CRYAMORE」を作っているところもあった。キャラクターは日本的な典型的萌えっぽいキャラクターが登場する。Robert Porter氏(NostalgiCO)を中心に9名の開発チームだ。びっくりしたのがこのゲームの開発チームには、日本人が一切いないところだ。日本のRPG(たまに、JRPGなどと呼ばれ蔑称的に使われることもある)が好きであるのかをとうとうに語ってくれた。特に「聖剣伝説」「ゼルダの伝説」の影響を受けているという。このゲームは、クラウドファンディングのKickstarterで、約24万ドルを集めることに成功し、開発を進めている最中だ。
このゲームはオリジナルのシステムだが、海外では、エンターブレインのRPGツクール(米ではRPG Maker)が一定の人気を得ており、RPGの開発というよりも、ストーリーを体験させるためのゲーム開発ツールとして使われることが少なくない。このツールで作られた有名なゲームに「To The Moon」というゲームがあるが、ドット絵のスーパーファミコン時代を連想させるようなゲームで、切ない物語が展開する。これまた、メインスタッフに日本人はまったく関わっていない。
大きなムーブメントにまではなっていないが、北米の開発者に日本のJRPGが好きで、その「アートスタイル」を評価して、自分たちなりに再現したいと思う日本のファンのゲーム開発者がおり、何とか独自に再現したいと考えている人たちもいる。今は、日本のJRPGは北米では苦戦しているというのは事実だが、改めて再評価が進む時期が来るのも、そう遠くないかもしれない。
■トルコのゲーム会社が模索する既存のゲームスタイルの改良
最後に、今回の出展で驚かされたのが、トルコのインディ開発会社が出展していたことだ。トルコにゲーム会社などあるのだろうかと思うが、中東圏を対象としたFacebook向けのソーシャルゲーム会社「Peak」が急激に成長しており、注目されているエリアだ。
Burak Tezatester氏(nowhere studio)を中心に2人で開発中のゲーム「Monochroma」は「Limbo」という白黒の世界を模倣する形で作られている。このゲームでは、何かゲームについての内容が一切説明されることがなく、背景の映像だけでストーリーを感じさせる新しい映像表現を含んだゲームだ。薄暗いトウモロコシ畑を通り過ぎていく。これが、どんな世界を作り上げているのかは、序盤ではわからない。ただ、日本の「ICO」に影響も大きく受けており、言葉を介することなく、途中でたたずんでいる言葉を交わすことができない女の子を、何とか誘導して、ゲームを進めていくというパズル形式のゲームになっている。
ゲームの開発には、14ヶ月かかっており、まだまだ、開発としては初期段階で、ゲームの販売に協力をしてくれるパブリッシャーを探すために参加したという。ちなみに、トルコのゲーム開発会社は、現在14社あり、世界全体にインディゲームを中心としたゲーム開発が広がっていることが感じられる。ゲームを作る裾野がとても広がっていることを痛感させられた。
■インディゲームが昨年以上の力を持ったのが今年のGDCの特徴
これ以外にも多数のゲームが出展して、開発資金の提供や、販売への協力を期待しながら参加している。すでに、存在するタイプのゲームを、改造したり追加しているケースが大半であるため、ゲームとしては、IGFといったコンペで、ノミネートを受けることは難しいタイプのゲームだ。
しかし、こうした人々も、自分なりに既存のゲームスタイルを改良しながら、可能性を探し続けているゲーム開発者たちなのだ。現実には、ベンチャー企業の多くが失敗するように、最後までビジネス的に成功できるゲームは多くはないかもしれない。どこの企業も資金的な苦労も、販売までも至る道も苦労をし続けるだろう。しかし、ゲームの表現の可能性を追い求め、自らの未来に夢を追い求めて、ゲームを作り続けている人たちの姿がある。
ちなみに、IGFと、GDCAwardは、ノミネート作品も含めて、インディゲーム一色だった。このアワードでは、日本のゲームが受賞が難しくなっているが、今度は、北米の何十億円もかけた大型ゲームのノミネートの受賞も難しくなりつつある。北米であれ、時代の変化が起きていることを痛感させせるものだった。
しつこいが、今年の東京ゲームショウでは、こうしたインディペンデントゲームの開発者のために、専用ブースが一般日に用意されることが決まっている。日本であっても、今存在する以外の可能性があることが感じられる場になることを期待している。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)、作家 @kiyoshi_shin
メルマガ週刊アゴラにて「ゲーム産業の興亡」を連載中