日本でもNPOが就職ランク1位になれるか?

本山 勝寛

就活の季節だ。この時期、日本の大学生たちが皆同じようなリクルートスーツを一斉に着て、就職説明会や面接に向かう姿をみると、ちょっとした異様さを感じる。海外でそんな光景はあまり目にすることはない。では、海外の就活事情とはどんなものなのだろう。ここでは、その一端を示す、就職人気企業ランキングを日米英と比較して見てみたい。まずは日本のランキング。(個人的には理系のランキングも重要だと考えているが、ここでは議論を分かり易くするため文系のみを紹介する。)


大手総合商社と銀行や保険といった金融系大企業が並ぶ。大半が旧財閥系だ。女性もほぼ同様の傾向で、JTBやオリエンタルランドといった女子大生に人気の企業が食い込んでいるくらい。ちなみに成長著しいが「ブラック企業論争」が盛んなファーストリテイリングは150位内に入っていない。次にアメリカの2012年のランキング(Humanities/Liberal Artsで日本で言ういわゆる文系)を見てみる。

1位のディズニーに続いて、2位に国連、3位にTeach for America(以下TFA)とNPOがトップ3入りしている。Googleやアップルの後には7位にPeace Corps。さらに、FBI、CIAに続き、アメリカ癌協会も10位だ。今をときめくグーグルやアップルと並んで非営利団体が複数入っているのだ。2010年にはこのTFAが1位になり、NPOが就職人気ランキングでトップに立ったということで大きな話題を呼んだ。途上国でボランティア活動を行う、日本の青年海外協力隊に似たPeace Corpsも最近ではトップ10の常連だ。

アメリカでは、NPOのスタッフが高い専門性を持ったプロフェッショナルな職業であるという認識が定着している。年間数百億円の予算を持つ団体も多数あり、給与も高く人気もある投資銀行やコンサルタント、一流企業や国際機関からNPOに転職する超優秀な人材が後を断たない。ハーバード卒業生も行政大学院や公衆衛生大学院、教育大学院だけでなく、ビジネススクールからもNPOへの就職や起業が増えている。特にリーマンショック以来、この傾向は加速しているといえる。

上述のTFAの就職ランキング躍進は、そんなNPO人材のプロフェッショナル化を象徴した出来事だと言える。TFAの事業モデルを簡単に紹介すると、ハーバードやイェール大といった優秀な熱意ある学部新卒生を教員免許の有無に関わらず、教育環境が劣悪な貧困層地区の学校に2年間派遣するというもの。2年間の派遣後は教職を続ける者もいれば、他のNPOや企業に就職する者もいる。アメリカで深刻な教育格差の是正を目指すのと同時に、困難な環境で子どもたちを指導するというリーダーシップ経験を持つ有為な人材を育成し、各界に送り出すという狙いもある。

TFAが就職ランキングで上位になった理由は、この社会的価値やインパクトのみならず、そのリクルーティングの規模にある。派遣者数は創設以来、年々増加しており、2011年には5千人を超えた。応募者数は5万人に迫ろうとしている。NPO先進国のアメリカといえども、多くのNPOが大企業と違って限られた新卒採用のポストしかないのに対して、TFAの規模は大企業にも劣らない。また、この点は、同じく就職ランキング上位のPeace Corpsが毎年数千人を派遣するのと同じだ。他のNPOも競争率ではTFAをしのぐところも少なくないが、リクルーティング規模の点から就職人気ランキングでは上位に入りにくいわけだ。

この傾向はイギリスでも同様で、2012年のランキングには、TFAと類似の教育事業を展開し毎年約1千人を派遣するTeach Firstが7位に入っている。ちなみに、イギリスに本部を持つ国際NGO「Oxfam」も4位に入っており、NPO人気はアメリカと同様の傾向にある。

米英は日本の数年先の将来を表示している(あるいは、日本はアメリカで起きたイノベーションを数年かけて取り入れる)ともよく言われるが、果たして、日本にもこういった状況が果たしてくるのだろうか?

個人的な考えとしては、人々がお金や安定だけでなく公益的精神をもって新しいことに挑戦し、日本と世界が抱える社会課題を創造的アプローチで解決していくようになるために、日本にもこの流れが生まれることを望んでいる。だが同時に、そのための障壁が大きいことも強く感じる。日本には欧米ほどの規模を持つNPOはほとんどないし、それらを支える財団の支援、企業や一般からの寄付も少ない。

ただ、変化の兆しはあちらこちらで出てきている。まず、アメリカで1位に、イギリスでトップ10に入ったTFAの事業モデルが、既に日本にも導入されたことは多くの読者がご存知のことと思う。Teach for Japan(TFJ)というNPOとしてスタートし、教師派遣も十数名だが始まった。TFJを始めたのは、私が卒業したハーバード教育大学院の後輩で尊敬する友人の松田悠介さん。彼が同大学院を目指してその受験過程をブログで綴っていたとき、私の受験体験ブログを参考にしていたことから交流が始まり、私の勤め先である日本財団でもスタートアップ支援の機会を得た。私よりも若い20代の若者だが、情熱溢れる彼なら、幾多の困難を乗り越えてTFJを成功させると信じている。彼が最近著した『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』もお薦めだ。

グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」 [単行本(ソフトカバー)]

TFJ以外にも、マッキンゼーを辞めてNPOを起業した「Table For Two」(社員食堂などのメニュー代金の一部を途上国支援にあてる取り組み)や「クロスフィールズ」(企業の人材育成の一環として社員を途上国のNPOに派遣する「留職」を展開)などが活躍し始めており、ポストの数はまだ少ないものの優秀な人材を惹きつけている。NPO法人ではないが、国際協力事業を行う独立行政法人JICAの人気も上昇傾向にあり、男性では79位、女性では58位に入っている。これらの動きが加速すれば、日本の就職ランキングが今とは様変わりする日が来るのかもしれない。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛