たかが東大されど東大 東大の課題と底力を知る ─ 世界最先端のリーダー教育・東大EMPを修了して

田村 耕太郎

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激変の時代のリーダーのための東大EMP
東大EMPを修了した。結論から言えばこれからの時代を生き抜くために非常に有意義な素晴らしいプログラムだったと思う。私は東大の悪口を言った覚えはないが、東大OBの方々から「田村さんの言うとおり、アメリカ名門もいいけれど、わが母校東大も捨てたもんじゃないかもしれません。東大の底力と可能性が一番わかるのが東大EMPです。今更、田村さんに日本の大学のプログラムを進めるのは恐縮ですが、ぜひ騙されたと思って参加してみてください」と推されたのが東大EMP。


東大EMPを勧めてくれた東大OBたちは、修士や博士も持って金融界や霞が関で活躍している人たち。付き合いも長く信用しているので、喜んで騙されてみようと参画した東大EMP。これからのグローバル化・超高齢化・テクノロジーの進化(これに地球環境の変化も加わるだろう)という三(四?)大変化が相互連関して起こる人類始まって以来の大激動期に、リーダーとなって課題設定・課題解決を目指す人には超おススメである!

未知の領域について最先端教員と議論
この内容の濃い半年間で、並みの東大生や東大教授や東大OBよりあらゆる面で東大に親しく詳しくなった。本郷、駒場はもちろん、弥生そして柏と東大のあらゆるキャンパスを訪れ、そこで文理の枠を超えて東大4000名の教員の中から選りすぐられたトップ3%弱(100強)の最先端の研究する教員たちから最先端の彼らでさえわからないことを本音で聞けた。彼らの多くは上手に国や企業から研究資金を獲得しており、さすがの研究内容とプレゼンテーション能力と人間性だった。わかりやすく飽きずそれでいて素人の好奇心をくすぐる。このような、目利きができる大学幹部によって厳選された、文理の区分を超えた有能な最先端研究者たちと、私たち志だけはある素人が対等に議論できる機会は東大EMPをおいてハーバードやエールでも実施しておらず、世界でも他に唯一無二のプログラムだ。

あまりに面白いので「東大も捨てたもんじゃないですね」とEMP関係者に言うと「田村さん、これを東大だと思わないでほしい。田村さんがあっているのは東大の特別な教員たち。裏を返せば97%は”違う教員”なんだから」と笑っていた。

もちろん、再認識したのは東大の称賛すべき点だけではない。逆に、「何しているんだ東大!」という思いも強くなった。欧米の名門大学を見てきた私に、素晴らしいと感じさせるだけの力量を世界はもちろん、国内にも伝えきれていないと思った。また、日本政府が最も資金を投入しているだけあって、東大の研究・教育力は国内ではずば抜けているし、分野によっては世界の名門とも対等以上のレベルにある。しかし、世界の名門高等教育機関の進化も早い。

アジアにおいてでさえ、英語で世界最高レベルの研究教育を行うシンガポール大学のような事例も出てきている。ちなみに東大幹部は来年のTHE世界大学ランキングでアジアナンバーワンの座をシンガポール大学に譲ってしまうのではないかと危惧している。また、東大が得意な理科系の諸研究でも、中国や韓国の追い上げは激しい。東大に残された時間もそう多くはない気がする。そのあたりについて東大総長をはじめとする幹部や教員の皆さんとざっくばらんに話す機会がけっこうあったのもよかった。浜田純一総長の東大のグローバルな地位の劣化に対する危機感は本物だと感じた。浜田総長は、ご本人の母校・灘校や毎年最多の東大合格者を出す開成ではトップクラスの高校生が東大ではなく、エールやハーバードを目指し始めている事実とその影響をしっかりとらえている。 hamadasocho

充実した課題図書で知識と考える力養う
話をEMPに戻すが、とにかく大量の本を読むプログラムだ。半年で分厚い本、しかも宇宙物理からコーランまで、を200冊ほど読まされる。私を含め、受講者は皆忙しい本業を抱えた40台なので、大変な負担であった。しかし、キュレーションが素晴らしい。この課題図書リストだけでも売れると思う(笑)読む量は非常に多いが、最先端の研究者が受講者の負担に配慮してくれた上で間違いない本を紹介してくれる。これさえ読んでおけば、これからの時代の変化に対応できると思えば、読むモチベーションは上がる。そのうえで最先端の専門家と私のような付け焼刃論者が同じ土俵でフェアに議論できるので講義もとても楽しかった。(正直、教授の皆さんには私は相当生意気に映っただろうが・・・)

自分でもメキメキと多彩な知識が増え、しっかりした思考フレームワークが構築できてきた実感が持てた。先日、アメリカを中心にそうそうたる世界のリーダーが集まるアメリカでの国際会議に参加したが、世界のいかなる立場にあるリーダーたちと議論しても、相手をあっといわせ、相手の言語でもこちらの土俵に引っ張ってくるだけの力がついたとわかった。これだけ有意義なEMPだが、正直にいえば、広く世間に知られたい気持ちと、ひっそりとわかる人だけでやってほしい気持ちと両方ある。21世紀のリーダーとなる気概を持つ人には心からおススメしたい。本を読み講義や実習に参加する時間作るのはかなり大変だが、時間作る力のない人そもそもリーダーには不適格だ。リーダーとなれるか否かを知るためにもEMPに挑戦する意義はあると思う。

多彩な受講生同士のネットワークも魅力
また多様なバックグランドと能力を持った受講生たちとのネットワーキングも大きな魅力だ。起業家、研究者、大企業幹部、オーナー企業経営者、官僚そして私のような政治経験者と幅広い受講生を選りすぐり、絆が深まるように共同研究や共同実験の機会を設けてくれている。修了後も末永く、これらすでに各界のリーダーともいうべき人たちと交流できる。同窓会活動も活発で期を超えた交流も盛んである。

EMPは東大が文科省に黙ってこっそり始めてしまったプログラムだけあって、非常におもしろいコンテンツが丁寧に作り込まれている。EMP設置は官僚を製造してきただけあって官僚の行動様式を知り尽くしたうえでの、官僚思考・官僚行動の盲点を突く東大らしいやり方だ。

東大EMPのより詳しい内容については今月末に出した君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から (現代ビジネスブック) [単行本(ソフトカバー)]
に記してあるので是非とも手に取っていただきたい。東大をかなり知り尽くす機会を頂いた身として、普通の東大生や東大教授も知らない東大の底力や課題について別の書籍でもおいおい書いてみたい。素晴らしい機会をくれた東大に感謝!
kodansya-ura