都は公共交通を24時間動かすよりもっとやることがある --- 岡本 裕明

アゴラ

政府は首相が座長を務める産業競争力会議において構造改革案を打ち出してきましたが、その中の目玉の一つが地下鉄やバスの24時間運行で新聞でもトップ記事として取り上げられました。

私の第一印象ですが、会議出席者は一度、深夜の山手線に乗ってみることをお勧めします。


山手線は夜の11時過ぎぐらいに乗るとかなり混んでおり、例えば渋谷と池袋の間はすし詰め状態ということもあります。そしてたちが悪いのは結構皆さん、飲んでいますので朝のラッシュに比べて整然としていないことでしょうか? ではなぜ、その時間の山手線が混むかといえばターミナル駅から接続している各私鉄の最終(行先が遠い人は最終も早いのです)に間に合わせるためであります。

今、山手線沿線に住んでいる人はリッチな人であり、大東京圏で見ればほんの一握りの人々であります。神奈川、埼玉、千葉、そして東京西部に向けて家路に着くわけです。

では都バスに乗ってみるとどうでしょうか? 主要路線はともかく、ターミナルから外に向かうバスは朝夕の勤め人のラッシュ時間以外は高齢者のバスパスの客ばかりで、午後には奥様方や子供といったところでしょうか?

私の見立てではアクティブ層が住んでいるのは不動産価格の問題もあり、どうしても都心からやや離れた遠隔地になってしまい、都心に住んでいる人は独身か、高齢者かというスタイルになりつつあるのです(これは世界主要都市では共通する傾向です)。とすれば地下鉄やバスが仮に単体で24時間営業しても赤字が増えるだけです。つまり、私鉄か中距離バスと連動させなければ意味がないのです。

それともうひとつは飲み屋で夜明かしするグループは山手線の始発を待つことをそれほど苦としているとは思えないのです。私も若い頃はかなり頻繁でしたが、そういう時は大体飲みはじめが夜の12時前とかでしたが。

この24時間バスと地下鉄を産業育成と便利で24時間機能する東京として進めたいという案ですが、いったい、誰を対象にしてどういう事業計画のもとでこういう発表になったのか、果てしなく疑問であるのです。深夜までマストランジットを稼動させるほど東京が動いているのか、といえば私は疑問です。

ニューヨークあたりで深夜まで飲んだら公共交通手段などを利用するビジネスマンは皆無です。ハイヤーの利用ではないでしょうか?(ダウンタウン内ならともかく、住宅地まではタクシーでは恐ろしいと思います) 飲む飲まないにかかわらず、夜中の公共交通機関は危ないという認識が欧米では普通ですので発想そのものに違いがあると思うのです。

産業競争力会議なのですからもう少し別のアイディアがピックされてもらいたいものです。ちなみに京成の押上と京急の泉岳寺を結び丸の内の下に新駅を作る構想については面白いと思います。この発想は数年前からあったのですが、石原都知事がその建設コストに難色を示していたのです。今回、その内容を進化させたのでしょう。

それともうひとつ。成田からのアクセスは東京と羽田に限らないわけで新幹線に乗り継ぐ場合の利便性を検討したら良いと思います。ちなみに東海道新幹線なら成田から品川乗換えが絶対便利です。東京駅のあんな地下深くから新幹線ホームまで荷物を持って上がるなどは至難の技。成田エキスプレスで品川ならワンフロア上がるだけですし、ホームも近いのです。そしてそこまでやるなら成田エキスプレスをシャトル状態でもっと頻発にしたほうが面白いかもしれません。要は4000億のお金をかけて成田と羽田を結ぶのもよいのですが、ちょいと工夫をするだけでずいぶん変わるような気がいたします。

今日はこのぐらいにしておきましょうか。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年4月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。