保育の場の不足が女性の社会進出を阻むという「常識」への疑問 --- 岡本 裕明

アゴラ

安倍首相の三本矢の一つである成長戦略は6月に向けて暫時発表される予定のようですが、その第一弾として女性の社会での活躍をバックアップする体制を整えるとしています。具体的には不足する保育園の数を増やしたり育児休業を3年間認めてもらうなどの案が上がっているようです。


まず、保育園の数。いわゆる認可保育園が不足していることに対応するようです。東京のある認可保育園では「母親が一定時間以上働いている人に優先入園資格があります」と言われたのですが、それの意味するところが私には十分理解できませんでした。「卵が先か、鶏が先か」の話でこの場合は明らかに鶏が先(=親が働いていること)を満たさないと認可保育園には入れないということであります。不思議でした。

一方、無認可の保育園の数は十分にあるのかもしれません。ただ、親の費用負担の問題とクオリティに疑問符がついていた記憶があります。無認可の場合、子供の数が多いにもかかわらず保育士の数が少なく、要は詰め込みすぎなのに親の費用負担が多いのです。一般的な経済原則で考えれば(補助があるので)安くて保育士の多い認可と高くて保育士の少ない無認可は逆さま現象になっているのであります。

いずれにせよ、安倍首相は5年間で40万人を受け入れる認可保育園を作るとしています。ちなみに数字で出ている待機児童は4万6千人だそうですが。感覚的には少子化が進んでいるので40万人分は多い気がしますが。それと認可保育園は赤字の垂れ流しですからいくら安倍総理の大盤振る舞いとはいえ、多少は工夫をこらしたほうが良いでしょう。

次に育児休業3年間を企業に認めてもらうよう、働きかける、という件ですが、これは個人的には反対です。3年間も会社から離れていたら人も業務もビジネス環境もすっかり変わり、「浦島太郎」なのです。戻る方も戻られる方も迷惑ですし、為になりません。保育所の数を十分に補い、親が一般的な勤務時間に子供を安心して預けられる仕組みを作ることが重要で親を3年も甘えさせてはいけません。それならむしろ在宅勤務を考慮したほうが良いでしょう。

ちなみに私ならまったく違うアイディアを提供します。オフィスビル建築の条件として就業者見込み数から割り出した児童数に見合った託児所をその建物内に建設することを義務化させるのです。オフィスビルのデベロッパーは儲けているのですからこれぐらいするのは当たり前です。また、託児所運営は当局が承認した非営利団体とするなど発想の抜本的な見直しが必要ではないでしょうか。

私が開発したバンクーバーの総合開発案件には屋外遊技場付の託児所建築義務があり、無償で不動産を譲渡し、無償で施設建築し、施設内の備品も提供しました。おまけに瑕疵保証までつけています。カナダの開発は受益者負担(この場合、デベロッパー)の考え方が浸透しており、それゆえに国家財政が先進国で最も健全であるのです。託児所が丸の内や六本木にあれば便利ですよね。つまりは発想の転換だと思います。

ところで日本がもしも本気で女性の社会進出を望むなら扶養家族控除の枠について全面的に見直したほうがよろしいのではないかと思います。子供が小学生ぐらいになった奥様方がなぜ、スーパーのレジ係に留まるのかといえばフルタイムのプロフェッショナルな仕事をすると旦那に迷惑をかけるという理由が最も大きな理由なのではないでしょうか? この扶養家族から「外れる」という言葉に異様な重みがあり、結果として女性の社会進出を心理的にも阻んでいると思います。

私は保育所不足の件はお母様方の直接的な不満の声としてマスコミが脈々と報道し続けてきたことで女性の社会進出の壁はそこにある、と思い込んでいるような気がいたします。もしも保育園だけの問題なら小学生の子供を持つ親はどうなのか、という部分が説明できないのです。

私は女性の社会進出は少子化の進む日本では不可欠の対策だと思っています。一方でそれを保育園と育児休暇の対応だけで済ませるのは対応として不十分であると感じております。いわゆるアダルトラーニングクラスを各所に設置し、専門家としての能力や知識を養成する税額控除可能なコミュニティスクールの拡充も重要であると考えております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年4月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。