空砲だった「黒田バズーカ砲」

池田 信夫

キャプチャ官邸には本田悦朗氏のように消費者物価指数の意味も知らない「ブレーン」がいるらしいので、ここ半年のアベノミクスが物価にどれだけ効果を見せたかを調べてみよう。

右の図は、26日に総務省が発表した消費者物価指数(生鮮食品を除く)いわゆるコアCPIだが、前年同月比-0.5%(図の一番下の太線)で、ここ数年ずっと下がっている。つまり上がっているのは株価などの資産価格だけで、物価は下がり続けているのだ。


では「黒田バズーカ砲」で緩和効果は出ただろうか。次の図を見ればわかるように、黒田総裁が「異次元緩和」を宣言した4月4日に、10年物国債の金利は瞬間的に0.3%台まで急落したが、そのあと0.6%台に急上昇し、サーキット・ブレーカーが働いた。その後も金利は0.6%前後で推移しており、白川総裁の時代の3月とほとんど変わらない水準で、緩和効果は出ていない。

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予想インフレ率(物価連動国債のブレークイーブン・インフレ率)も増税の影響を除くと0.5%程度で、ほとんど変化はない。「2年でマネタリーベースを270兆円に倍増する」と日銀総裁が公言したのだから、リフレ派の「インフレ期待理論」が正しければ、予想インフレ率は大きく上がるはずだが、現実にはやや下がっている。要するに「黒田バズーカ砲」は空砲だったのだ。

先週のアゴラチャンネルで小黒一正氏も指摘したように、起こったのは債券市場の混乱だけだ。日銀が国債を買い占めたため国債市場が機能しなくなり、機関投資家は外債などに資金を移し始めている。これこそ財務省の恐れているシナリオだ。日本の政府債務がこんなに巨大なのに低金利で安定しているのは邦銀が買っているからだが、日銀への信認が失われると彼らが海外に資本逃避するおそれがある。

黒田氏は「戦力の逐次投入はしない」と大見得を切ったが、気の毒なことにすべて投入した戦力で何も起こっていないのだから、国会で「異次元緩和は効果がないじゃないか」と追及されると、また白川総裁のように追加緩和の逐次投入をするしかないだろう。

しかし270兆円で効果がないのだから、数十兆円の追加ではきかない。いっそ今度はその「2倍」の540兆円にしてみてはどうだろうか。今度は確実にインフレが起こるだろう――ハイパーインフレが。