最近は安倍首相の経済政策を「アベノミクス」といって、これは日本経済を復活させる魔法のつえなのだそうです。その目玉は、わざわざ物価を上げる「インフレ目標」という政策なのですが、これを推進している人々は当然、物価とは何かを知っているはず・・・と思ったら、大きな間違いです。
「安倍総理公認本」と銘打った本田悦朗という人の『アベノミクスの真実』には、「期待は金融政策で作れるから、金融政策だけでデフレから脱却できる。アベノミクス以降、円高是正や株価上昇、さらに不動産価格の回復が起きているので、その効果は明らかだ」と書いてあり、左のような図で説明されています。
しかし消費者物価指数の品目を見ればわかりますが、株価や地価は指数に含まれていません。こういう資産価格は、みなさんが日常生活で使う消費財とは違って投機的な予想の変化などで大きく動くことがあるので、物価には含めないのです。こういう人が安倍さんの顧問で、こんな間違いだらけの本が「総理公認」というのは困ったものです。
本田さんのように株価を物価に含めれば「アベノミクスでインフレ期待が起こり、物価が上がって景気がよくなる」という「リフレ理論」はもう証明されたようにみえますが、実際の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は3月は0.5%のデフレです。安倍さんがあれほど「インフレ期待」をあおっているのに、物価は下がっているのです。
では、これから上がるでしょうか? それは今までの統計でみると、むずかしいでしょう。物価が上がるためには、世の中に出回るお金(マネーストック)が増えないといけません。そのはかり方にはいろいろありますが、よく使われるM2というものさしで見ると、次の図の赤い線のように、ここ5年以上ほとんど増えていません。
マネタリーベース(青)とマネーストック(赤)の前年比増加率(%)
青い線は日銀の発行する日銀券(お札)の量で、マネタリーベースといいます。これは2011年の東日本大震災のあとには20%以上も増えていますが、出回るマネーストック(赤い線)はほとんど変わりません。今年の1月に政府と日銀が共同声明で2%の「インフレ目標」を設定してお札の発行量を2倍ぐらいに増やしましたが、やはり赤い線はほとんど上がってませんね。
どうしてこうなるのかは、小学生のみなさんにはむずかしいのですが、2月のこども版で説明したバナナの話を思いだしてください。金利がゼロになってしまうと、それ以上お金を貸したくても借りる人がいないのです。いるとすれば、株式や不動産などの投機に使う人で、株価が上がっているのはこのためです。
日銀は総裁が黒田さんに代わって「今後2年で270兆円のお金をばらまく」と宣言しましたが、上で見たように物価は上がらないで株式や債券などの価格が大きく変動しました。このまま国債の大部分を日銀が買い占めると、物価じゃなくてこういう資産価格のバブルが起こる可能性もありますが、それが崩壊すると大損します。よい子のみなさんは、インフレとバブルの区別ぐらいしましょうね。