ある海外移植の会計~渡航費用4000万円? --- うさみ のりや

アゴラ

さて最近定期的に書いてる海外移植事情のエントリーなのですが、今回は少し具体的な話について。なかなか難しい問題なので、ちょっと慎重に書きます。


Facebookで少し前に「なぎクンを救う会」という団体が「2歳の子(なぎクン)がアメリカで心臓移植手術しないと死んでしまう」ということで募金の案内をしているのを見かけました。当時は何となく助けてあげたいな~、という風に思った程度だったのですが、最近色々と海外移植について知るうちに、「そういえばあれってどうなったんだろう」と思って調べたところ、どうやら2億2千万円ほど集まったようで、無事目的を達成したようです。ちなみにそもそも必要だとされていた費用(1億6500万円)の積算はこんな風になってました(※編集部注:なぎくんを救う会より)。

 <目標募金額とその内訳>

 デポジット                10.200万円
 医療予備費                1.650万円
 渡航費用                  4.000万円
 現地滞在費                500万円
 事務諸経費      150万円
 合計                  16.500万円 

 *デポジットとは
 移植実施病院に先払いする手術費・治療費などの医療費です。
 手術を行い余剰金が有れば返金されますが、不足金が出れば追加請求されます。
 デポジットは年々高額になっている現状があります。

別にこれをもって高いかどうかを即座に言うつもり無いんですけど、渡航費用が4000万円って本当なのかな?と正直思っちゃうとこはありますよね。飛行機のチャーター便1日貸し切っても1500万円もいかないわけで。ちなみに2008年時点では日本心臓財団では海外移植の費用を概ね5000~14000万円としています。国内での心臓移植手術がだいたい200万円くらいなのでかなりの金額差(30倍~100倍)が出るようで、「なんでこんなに金額が変わるんだろう」とちょっと疑問に思って最近知りあったとある移植コーディネーターに聞いてみたらこんな感じでした。


<臓器移植コーディネターへの電話インタビュー>

Q:海外移植関連で小さな子供の命を救うための募金活動を駅前で見ることがありますが、あの1億数千万円は妥当な金額なのでしょうか?
A:もし、日本で心臓移植をしたら200万円以下で出来ます。術後の入院や治療費を加味したとしても1千万円を超えることは稀です。しかも医療保険や各種の助成制度を活用すれば患者側の費用負担は数十万円で済みます。しかし、海外移植の場合は不明朗な部分があるので、適正か否かは一言で申し上げられません。

Q:日米で移植手術の値段の差は大きいんですか?
A:移植手術に関する医療設備・処方薬・プロトコール(手順・規格)は世界的に標準化されており差異は無いので、どこの国で手術を受けられても手術費用の実費はさほど変わりません。また子供の移植をするための専用設備や処方薬も特別な物はないので成人と手術費の差はありません。当事国の物価や人件費の差は考慮する必要はありますが、それは数百万円のレベルです。しかしながら実費以外に関係者への謝礼金として数千万円を別途に用意しなければ移植治療は受けられない現実があります。

Q:それでは残りの1億以上のお金はどこに使われるんでしょうか?
A:渡航費や滞在費などの実費以外は関係者への謝礼金となります。

Q:謝礼金が1億円ですか、、、、、関係者とは具体的に誰にいくら渡すのですか
A:これは難しい質問です。なぜなら費用明細に「謝礼金」の項目は無く、医療費や予備費または渡航費用等に含めて計上されるので誰にいくら支払ったかはベールに包まれます。移植を受けるにはドナー(臓器提供者)が必要となりますが、米国でも臓器は不足しており待機リストに登録して順番を待ちます。日本人の場合はこの順番を割り込みするための費用や執刀する外科医への謝礼金が必要となります。また患者を送り出す日本側の関係者にも謝礼金が分配されることがあるようです。

Q:ようは中間マージンと工作費ってことですね
A:見方によればそういうことになります。臓器移植は、まさに生死を分ける治療であることから、その実現に際して中心的役割を果たした者にどの程度の対価を支払うべきか、また何を尺度として評価するのか、適切と思われる基準は無いからです。

Q:日本側の関係者に中間マージン取られることは納得いかないです。費用の総額はどのようにして決められるのですか
A:謝礼金に定まった基準は無く個々の事案ごとに当事者間の合意に基づいて決められているのが実情です。子供の移植が成人より割高であることや本来、肝移植と比較して低額であるはずの心臓移植が高額となるなど、渡航移植に医療費並び実費の積算という合理的概念が存在しません。
命を救う方法が移植術以外にない場合、依頼人(患者側)の要求度及び緊急性に応じて謝礼金を含めた総費用が双方合意の下に決められます。

Q:日本国内なら200万円で手術できるものが1億数千万となると患者側も疑問を持つはずだと思うのですが?
A:患者側は「命を助けて貰う」立場なので立場が弱く面と向かって言えない状況下にあります。それと、もう一つの理由として、募金や寄付金が主体なので、自分の財布からお金を出してないので痛みを感じないという根本的な問題があります。


。。。

どういうご感想を持つかは読者ごとに違うと思いますし、これはあくまで一般論としてコーディネーターに答えてもらった話なのですが、個人的な感想は「世の中やっぱりキレイな話というのはないんだな」というところです。別にこういった活動自体を否定する気はないのですが、それに行政や新聞社や自治会といった団体が無償で協力するのは控えるべきなんじゃないかな~、と思っています。
さてちなみに肝腎の「なぎくん」ですが、渡米して3ヶ月近くたつわけですが、未だにドナー待ちということで手術にいたらないようです。ここまで書いたようにお金に関しては色々と複雑な事情があるようですが、それと子供の命の重要性は別問題なので、無事手術が行われて、回復することをお祈りしています。

それでは今日はこんなところで。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、独立するの巻~」2013年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、独立するの巻~をご覧ください。