日本の不動産価格に注目が集まっています。アベノミクスや金融緩和は株価のみならず、不動産価格上昇に対しても期待が高まっています。事実、不動産投資信託は日銀の買い支えもあり、堅調に推移し、更なる資金が不動産投資信託市場に流れ込む状況となっています。
また地価動向についても下落地点が着実に減少していることなどもあり、1、2年のうちに上昇に転じる可能性も出てきています。では、この期待高まる不動産価格ですが本当に今、買いなのか、もう一度考えてみたいと思います。
まず、アベノミクスで景気が良くなったとすればどんな人が潤うのでしょうか? 一般的に収入が増える方法としては給与、不動産売買、株式や為替相場からの収入、利息、賃貸収入や自営業の収益などが考えられると思います。その中で最も早くその効果が現れるのが株式と為替相場でしょう。次いで、賃貸収入や自営業の収益で不動産売買や給与は上がったとしてもタイムラグが極めて長くなりますし、その上昇幅も比較的小さいものです。また、利息はほとんど期待できないでしょう。
とすれば、余剰資金を株式や為替で運用可能な高額所得者の所得上昇が最も先に現れます。事実、日本で株式投資を行っているのは人口の15%に留まるとされています。これらの人が今、デパートなどで高額商品の消費を始めたとされており、百貨店の売り上げが上昇しています。また、スイスの高級腕時計やデザイナーズブランドの売り上げも大幅に伸びています。
また、不動産に目を向ければ1億円以上するような新発のマンションも完売が続出しており、いかにも景気がよいという雰囲気をかもし出しています。10日ほど前にこのブログでゴルフ会員権の相場も上昇しているということを書かせていただきましたが、そちらのほうもいわゆる名門コースと称するところを主体として上昇しており、メンバー数が多い一般コースの需要はまだ盛り上がっているとはいえそうにもありません。
つまり、明らかに言えることはアベノミクス第一弾で作り上げたものは富める者はより富を蓄積するという二極化を更に推し進めているということであります。それゆえに億ションの需要も高まっているということになります。
ところで不動産にはさまざまな種類がありますが、一般的には居住用不動産、商業用不動産が注目されるところであります。そしてアベノミクスと景気回復の第一弾で直ちに影響を受けやすい不動産とは商業用不動産と高級住宅地ではないでしょうか?
商業用不動産は上述の通り、高額商品などの消費が進むようになればリテールの出店が増えやすくなり、また、都市開発を通じた需要の創出が起こりえます。また、オフィスの需要にも繋がり、大型投資による活性化が期待できるのであります。
ところが居住用不動産となると話はそう簡単ではありません。いくら高額マンションが売れるからといっても一般の方がお住まいのマンションが突然値上がりしたり戸建住宅の不動産価格が上昇することは現時点では想定しにくいと思われます。
理由は上述したように一般層の収入が直ちに急激に上昇するわけではないこと、近年の不動産は駅前開発を通じて「空中権の確保」が主流であり、「地面の価値」ではないこと、少子化の構図はまったく変わっておらず、高齢者が所有する戸建物件の中古市場への供給も今後、高まる公算があることが考えられましょう。
不動産バブルというのは以前も指摘しましたが国家レベルでの盛り上がりが必要であり、また何度も簡単に引き起こすことは出来ないのであります。日本は世界的に見てもっとも早くその恩恵にあずかりましたが、今後、国民が住宅を競って需要する構図は見えにくいと思います。アメリカやカナダの住宅バブルはライススタイルのチェンジがその引き金、韓国や中国は日本同様、持ち家率の底上げでありました。日本でライフスタイルを背景とする住宅需要が高まるきっかけは今のところないように思えます。
とすれば今、高まる不動産市場への期待とはやはり、商業不動産や一部の高額物件などが主体であり、全面的なボトムアップにはなりにくいのではないでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年5月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。