事実上解禁された一般用医薬品のネット販売だが…
一般用医薬品のネット販売についての経緯と既出の論点は割愛するが、最高裁判決後、事実上解禁されているネット販売につき厚労省が法制度化を進めており、どうやら第1類医薬品で販売開始後4年以内のものは対面販売、それ以外の第1類および第2類の全てはテレビ電話を使った販売の義務化に落ち着きそうだというから、一時は完勝ムードに包まれたネット事業者周辺が、再び徹底抗戦の狼煙を上げている。
「富山の薬売り」の既得権
さて、配置販売業、いわゆる「富山の薬売り」については以前より、ネット事業者から「厚労省が言う対面販売の原則と矛盾する」との批判があった。配置販売業とは、薬事法第25条に規定されており、業者が企業や家庭を訪問し、風邪薬や鎮痛剤などの常備薬を薬箱に詰めて置いて帰り、数週間~数カ月後に再訪し使った薬を補充するとともに、その薬の代金だけを収受するという商売。事業者は「区域管理者」として薬剤師か登録販売者を据えなければならないが、実際に企業や家庭を回る販売員は、通常、登録販売者ですらない無資格者だ。
現在の法的根拠は、2006年に薬事法の改正を迅速に進めたかった厚労省が配置販売業者の反対をかわすために、事実上無期限の既得権を認めた経過措置に基づく(薬害オンブズパースン会議による検討に詳しい)。
配置販売業の矛盾が露呈
後に、省令によるネット販売禁止を受け、ネット事業者が「配置販売業も対面販売していないだろ」と引き合いに出すようになったが、厚労省は「置き薬をするときに業者が効能や注意点の説明をするので対面販売と変わらない」と、いかにも苦しい説明を続けてきた。それがここにきて、テレビ電話による対面販売を義務づけた時点で、「適時性」と「服用者の特定」を規制の要素に盛り込むことになり、その苦しい説明すら不可能となった。
井上晃宏氏も指摘するとおり、一般医薬品は、大半が、家庭内で、いったん保管されてから使われる。「販売」と言う以上は、これが大前提。例えば、子どもが風邪をひいていなくとも、もしものときに服用するための第2類医薬品を、親がドラッグストアで薬剤師または登録販売者との対面において「情報提供」を受け購入する行為は、売る側にも買う側にも、現行法(運用)上の問題はないはずだ。さらに言えば、たまたま自宅に遊びに来た子どもに風邪の症状がみられたので、購入者がその買い置きした薬を服用させることも何ら問題ない。しかし、第8回一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会資料1-11、1-12を見ると、降って湧いたように現れた「テレビ電話」が、対面販売とほぼ同格に購入者保護に繋がり、電話、メール、WEBではこれが困難であると言わんばかりに、対面販売の評価そのものについてもおかしな理論を展開している。
厚労省が対面販売に求めるのは「擬似医療行為」?
これらの内容は既に、一般用医薬品販売事業者に対し、「擬似医療行為」とでも呼ぶべき、一般医薬品の処方機能を要求しているようにしか読めない。つまり、薬剤師や登録販売者が、今、現実に何らかの症状を訴える購入者または症状を訴える者の事情を知る購入者から情報収集し、然るべき一般医薬品を販売すべきであると。この行為はもはや、販売というより処方だ。処方せん薬のネット解禁論がにわかに現実味を帯びるのも頷ける。
以上から、経過措置とは言え、既出の配置販売業の適法性に関する厚労省の言い分が、そもそも論理破綻していたことがわかるだろう。また今回、厳密に厚労省が対面販売とテレビ電話に要求する理屈で行くのなら、配置販売業の置き薬も、使う前にテレビ電話で薬剤師または登録販売者の面談を経なければ整合性がとれないのではないか。もしくは、店頭販売で購入した物を含む全ての置き薬の禁止だ。厚労省は今、自らが「対面販売」の定義から電話、メール、WEBを排除したいがために持ち込んだ「適時性」と「服用者の特定」の概念で、自らの首を締めている。
既得権益を守りたい自民党と官僚は今や相思相愛と言えるが、両者とも先の最高裁判決が邪魔で仕方ないのだろう。様々なバイアスで事実を歪め司法の判断すら骨抜きにしようとする、これが自民党政治の真骨頂なのだが、本件に関しては、どうも厚労省の分が悪い。安倍首相もせっかく国民の人気者になってご満悦のようだし、せめて夏の参院選までの間は、既定路線でネット世論にも媚びておく、という「政治判断」は十分にあり得ると思うのだが。
(原 悟克/アゴラ執筆者)
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