特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会を設立して3年がたった。しかし、依然としてウェブアクセシビリティに対する社会の理解は深まっていない。人々は放送・通信・ネットと多様な形態で情報を受発信するが、様々な事情から受発信が阻害される場合がある。ガード下で騒音がひどければ通話はむずかしく、液晶画面は太陽の下では読みにくい。障害や年齢も受発信が阻害される要因である。利用者視点に立って阻害要因を改善していくために、とりわけ、ウェブに関して改善していくために、組織したのがウェブアクセシビリティ推進協会である。
情報通信機器・サービスは多種多様である。その中から特にウェブを選択したのは、ウェブが受発信インタフェースとして広く利用されているからだ。人々はウェブサイトで情報を閲覧する。ウェブサイトに表示される入力フォームを利用して、航空チケットの予約や電子申請をする場合もある。電子書籍での表示のコントロールにもウェブ技術が利用される。文字を拡大したり縮小したり、単語の意味を表示したり、ウェブサイトにジャンプしたりするために、ウェブ技術が利用されているのである。ICキャッシュカードに「英語で、大きなフォントで表示」というようにあらかじめ好みを記録しておけば、希望に沿ってATM画面に表示される技術が国際標準化されたが、これもウェブの応用である。
ウェブはさまざまに利用されるが、本家本元はウェブサイトである。わが国行政機関では、ウェブアクセシビリティへの配慮はまだ不十分である。全府省と47都道府県庁の中で、ウェブアクセシビリティに意識が高かったのは、総務省・経済産業省などわずかにとどまっている。次の10年間の政府施策の方向性を示す「(新)障害者基本計画」は、期限の3月を過ぎても決定されていないが、「国の行政機関等は、インターネットで公表している情報のアクセシビリティを再点検し改善すること」を新計画に盛り込むべき、という意見が障害者政策委員会から出されている。
国外では、ウェブアクセシビリティに配慮するのが当たり前になりつつある。リハビリテーション法508条に沿って米国の連邦政府機関はウェブアクセシビリティに対応している。韓国では、2008年制定の障害者差別禁止法により、ウェブアクセシビリティへの配慮がすべての法人で義務化された。利用できないと訴訟が提起されれば、「3000万ウォン以下の罰金または、3年以下懲役」という刑事処分も受けることになるという。
ウェブアクセシビリティ推進協会では、5月30日にセミナー「障害者基本計画と情報アクセシビリティの今後」を開催する。障害者基本計画について、障害者政策委員会委員長の石川静岡県立大学教授に講演いただくほか、府省・都道府県サイトにおけるアクセシビリティ方針調査結果を発表する。皆様のご来場をお待ちします。
山田肇 -東洋大学経済学部-