ネット広告、バナー表示の先を読む --- 藤村 厚夫

アゴラ

ささやかれる Web 広告問題。それは見られてもいない広告が膨大に売買されていることだ。メディアも、広告主も、そして読者をも幸福にしない。広告ビジネスに転換期がやってくるのか? 見え始めたバナー広告終えんの動向と、その“次”を探る。


バナー広告のある風景は、もう続かない——。

こう述べるのは、ジャーナリストの Alex Kantrowitz 氏です。DigidayThe Banner Industrial Complex Under Threat」(脅威にさらされるバナー広告産業複合体)から引用します。

もし、君がバナー広告とパッケージになった Web ページの姿を愛しているなら、それを味わっておきたまえ。もう長くは続きはしないのだから。

バナー広告はそのピークにあり、どこにでもあり、そして、見苦しい。それは数兆もの数で取り引きされ、代理店などの間接販売を駆り立ててきた。しかし、取引数や売上は、広告主、代理店、メディア企業、そして消費者のすべてを不幸にしつつある。

バナー広告(ディスプレイ広告)は、Web 業界を15年にわたって潤してきました。しかし、経済、特に Web ビジネスをめぐる環境変化の中でその地位の終えんを迎えていると見ます。

終えんに向かう、いま・ここを簡単に整理しておきましょう。

  • 過剰インベントリ(広告表示可能な回数、「在庫」ともいう) 広告を事業モデルにする Web ビジネスが増え続け、加えてソーシャルメディアが大量に安価なインベントリを生み出し、バナー広告の単価を押し下げている
  • 広告効果への疑問 それがクリック(あるいはタップ)される効果の低さ、そして、それが“見られている”ことの広告効果への疑問、言い換えれば“表示”されても、“見られていない”ことの事実が検証されつつある
  • 取引価格の低下と劣悪なクリエイティブのはん濫 バナー広告をめぐる自動運用型の取引市場が発展し、これがさらに取引価格低下と低品質広告の過剰表示を引き起こしている

広告収入を頼りにする Web メディアやサービスにとり、バナー広告問題が深刻な経済的悩みを招くことは当然ですが、さらにこれがユーザーのバナー広告嫌いから、バナー広告漬けの Web メディアやサービスまでを嫌ってしまう傾向を引き起こしつつあることは否定しようがありません。

記事で Kantrowitz 氏はこう述べます。

シンプルなバナー広告は、各種の攻勢にさらされている。バナー広告の“視認可能性”の計測標準は、広告インベントリの約3割を無効と見なす。(調査会社の)comScore によれば、ネイティブ広告やスポンサードコンテンツの隆盛により、すでに広告主の予算やメディアの掲載場所はこれまで用いられてきたバナー広告から離れつつある。

メディアは、広告主のカネを魅了するために Web サイトの再デザインを進め、バナー広告とその販売代理店への依存度を減らそうとしている。

これらは、バナー広告の“量”によって成り立っていたエコシステムの窮地を意味するのだ。

ここで重要な点は、危機感を募らせたメディア運営者がすでにデザインリニューアルなどの手を打ち始めたということです。以下、その点に注目していきます。

Kantrowitz 氏は USA Today などを擁する米大手メディア企業 Gannett デジタル部門の責任者のコメントを引き、バナー広告離れは必然とし、これまでのメディアの経営戦略の転換だとします。

(バナー広告離れは)この道を選択するしかない。過去12年間、皆で追随してきた戦略、すなわち、たくさんの広告インベントリをつくり出してはそれを95%引きで代理店に売り渡すというものは、もはや長期的な戦略たり得ないのだ。

このように考える Gannett の新たなオンライン広告の戦略は、昨年大きなリニューアルを遂げた旗艦メディア USA Today に如実に現われています。

再び Kantrowitz 氏の論から引きます。

Gannett は新たなアイデアをとっている。それは、USA Today をデザインリニューアルする中で広告インベントリを劇的に減らすという方法だ。

記事本文の周りに可能限りたくさん広告を貼り付ける代わりに、各記事の本文隣りにひとつだけ広告ユニットを置き、本文と広告をパッケージにしたライトボックスとして表示することに決定したのだ。

下図をご覧下さい。リニューアルされた USA Today は、トップページに表示された各記事をクリックすると、それぞれの記事がライトボックス(参照 → こちら)としてポップアップし、記事と対になった大型のバナーやビデオ広告も同時に表示されるようになりました。

USATODAY トップ面(左)と記事面

重要なことは、このライトボックス内に生じる広告インベントリは、たった1つだということです。

広告インベントリ依存型のビジネスが“量”を追求するあまり、ページ内のずい所にバナー広告を設置し1ページビュー当たり10以上のインプレッションを生じるようなバナー広告中毒症状に陥ってしまっているのとは好対照です。

記事はこのようなバナー離れの動きを示すのは USA Today だけではないとします。

USA Today だけではない。これまでバナー広告販売のエコシステムを糧にしてきたメディアは、バナー広告を明示的に削減するか、もしくは依存度を下げる手段をとりつつある。

たとえば、BuzzFeed はバナー広告をサイトに掲載しない。スポンサードコンテンツがその代わりを果たす。一方、The Atlantic はバナー広告フリーの選択をしている間に、オカルト系広告主によるばかげたスポンサードコンテンツを掲載してしま(い問題とな)った。

また、他方、有名ブロガーの Andrew Sullivan 氏は、スポンサードコンテンツ・モデルに批判的であり、独自のバナー広告削減策を見出した。それは、メーター型ペイウォール(有料課金)であり、すでに60万ドルを得ている。

BuzzFeed記事面。右上にスポンサードコンテンツ

メディアが動き始めた別のケースもあります。たとえば、米 Yahoo! は、ダイレクトレスポンス系広告として最も効果的と評価されていた Yahoo! メール表示時のウエルカムスクリーン広告を廃止しました。同社は近年、ユーザー体験の向上をうたっており、ユーザーによるメール利用のスピード感を意図しての判断だとし、Yahoo! の広告およびデータプラットフォーム担当幹部の発言を紹介しています。

(メディアは)広告をもっと設置すれば、つねに短期的には売上を得ることができる。しかし、それをメディア戦略だとするなら、決して成功しないだろう。

記事はこれ以降も、代理店が関与したエコシステム(利害共同体)が、結果として量に頼るバナー広告のビジネスモデルが、おびただしい数の広告掲出と、ページビュー至上主義をはびこらせたとの論点を展開します。

しかし、これ以上の詳細な紹介は不要でしょう。

すでにバナー広告が抱える課題は明瞭です。また、“ポスト・バナー広告”的存在も見えてきています。

最後に、筆者(藤村)の視点に引き寄せていきたいと思います。

筆者は、現下の経済環境で、課金ビジネスモデルが台頭するというトレンドがある一方、広告というビジネスモデルはまだ存続するものと見ます。

しかし、(表示回数を広告主に約束する)インプレッション型広告の存在感は、記事が述べているように希薄化する方向との視点に同意します。

自動運用型広告が増え続け、結果として安価かつ大量に配信する広告が目に余るようになってきました。このトレンドは、DSP や RTB など最新の広告テクノロジー(参照 → こちら)は、ありあまるほどの広告インベントリを延命させているだけの結果にしか見えません。

では、これからの広告はどうなるべきでしょうか?

記事で紹介された「ネイティブ広告」と「スポンサードコンテンツ」は“記事風の広告”として可能性を見せます。大ざっぱに、前者はメディア編集部門の積極的な関与があるもの、後者は広告主が制作しメディアに持ち込み掲載したものと理解すれば良いでしょう。

そのいずれも、可能性とともに危うさを含みます。これらの動向については、すでに Blog on Digital Mediaネイティブ広告 メディアの救世主たり得るか?」などですでに論じています。

バナー広告の価値失墜のトレンドに本質的に対抗するには、ひとつは広告の企画・制作自体を、編集記事と同じ、もしくはそれ以上にメディアが心血注いだコンテンツ性の高い広告が想定されます。結果としてそのような広告が高い成果を生むはずですが、事前に到達できる成果などを確定しづらい難点があります。

一方で、ユーザーの文脈を追随できる、柔軟で表示もメッセージも軽めな広告の意義も増すと想定します。

前者の広告モデルは、編集能力を駆使したコストの高い広告商材であり、汎用性が低いと見ます。一方、後者の広告モデルは、AdSense など検索連動型広告の延長線上に位置するものといえるでしょう。このポイントは、検索、ソーシャルグラフ、そしてユーザーの興味などを重み付けに取り込むパーソナライズ性です。いずれ、“広告のアグリゲーション、キュレーション”として低価格な商材の流れを生み出すものと展望します。

さらに、軽量な広告はフォーマットの柔軟性を併せ持つことで、PCからモバイルに至るスクリーンやメディア形式の多様性に追随できるはずです。

このような広告モデルには、より一層テクノロジーが関与することになります。大量の広告と最適な配信先コンテンツを組み合わせるため、Google のようなプラットフォーマーか、あるいは第三のアグリゲーターに主導権が委ねられる、そのような可能性が姿を見せようとしています。

(藤村)

編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年5月27日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。