5月28日に発表になったアメリカのケースシラー住宅価格指数は前年同月比で10%以上上昇、事前の予想を上回り好感されました。アメリカの住宅価格は2006年半ばにピークを打った後、下落傾向に入り、リーマン・ショックで崩壊しました。長期に渡る住宅市況の低迷の理由は何度も言われていますが、住宅市場が回復期にある今、再び考え直すにはちょうど良いかもしれません。
当時、本来であれば住宅が購入できるクオリフィケーションがない人も金余りと不動産価格の上昇で金融機関が積極的にリスクテイクをし、融資を実行し、多くの人に夢を与えました。しかし、リーマン・ショック後、不動産価格が逆向きに爆走し始めたことからリスクテイクの部分が剥がれ落ちた、というのが一言でいうアメリカの住宅問題でした。これは銀行のリスクテイクという意味で日本のバブル崩壊とほぼ同じシナリオです。
この余波は長く続きました。一つにはあまりにも多い管財物件に市場の需給バランスが壊れてしまったこと、また、住宅ローン破綻した人の回復力は経済が低迷し、失業率も高止まりしていた中で遅々として進まなかったことが原因でした。
私はその市場を見ながら、2012年初めにはアメリカ住宅市況は年内に底打ち、と見立てていました。それは銀行の投売りに一定の目処がつきそうだったこと、自動車販売台数が回復に向かっていたことから消費への自信が戻り始め、我慢していた住宅取得への初動が見られたこと、アメリカ国内の経済回復が金融政策というより、オバマ政権の政策として効果を見せ始めていたことが挙げられると思います。
少なくとも現在のアメリカの住宅市況は回復の一途を辿っていると断言して問題ないと思います。今後、アメリカではライフスタイルの変化が更なるブームを起こす可能性があるかと思います。それは都市圏におけるコンドミニアムライフの普及であります。そうなればアメリカの住宅産業は低層の木造からダウンタウンの高層集合住宅によりシフトするでしょう。理由は都市部におけるより活動的で便利な生活がアメリカの若い世代に当たり前のように受け入れられつつあるからです。
いまや、ベッドルームが5つも6つもあってプールがあるような巨大な住宅はフィッツジェラルドが描く1920年代の華麗なるギャツビーの世界ではないのですから流行らなくなるトレンドにあるのではないでしょうか?
さて、好調のアメリカに対してカナダの一部都市では不動産市況に黄色信号がともっています。特にバンクーバーは厳しさを増す、というのが私のずっと変わらない予想です。特に新規供給の数は尋常ではなく、確実に売れ残りが多数出ますのでデベロッパーの体力勝負、ひいては一部の値崩れは覚悟せねばならないでしょう。以前から繰り返していますが、デベロッパーの倒産もありえると見ています。なぜ、これほどの新規供給が出ているかといえばリーマン・ショックの際、バンクーバーの住宅市況は更に強含み、デベロッパーが強気になり、結果として土地を仕込んでしまったというのが理由でしょう。
2009年ごろに土地を仕込めば開発準備、許認可で2011年頃に着工、2013年完工という流れになりますので今年から来年がデベロッパーの勝負どころになります。
バンクーバーはもともと不動産市況を中国などの富裕層の移民が支えていたわけですが、現在は中国からの富裕層移民がそれほど入って来ている状況になく、不動産の下支えには十分ではありません。カナダ、特にバンクーバーエリアは資源関係の業種が多いのですが、商品価格の低迷で一時の景気の良い声もすっかり消沈しており、国内景気はまさに「地味」な状況にあります。
カナダ中央銀行は昨年まではG8の国では利上げを一番に行えるといっていたものがいまや、利下げを検討しなくてはいけない状況にあり、一部大手銀行エコノミストからもそのような声が出始めています。
そんな北米の明暗の将来を案じるかのように為替の見込みはこの先1年程度でカナダドルは対米ドルで7%程度安くなると見られています。数ヶ月前まではカナダドルと米ドルがパリティ(同価値)だったわけですが、アメリカの10分の一の人口しかおらず資源に頼るカナダが米ドルと肩を並べるというのはやはり出来すぎた話なのかもしれません。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年5月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。