ここが正念場、安倍政権の金融政策 --- 岡本 裕明

アゴラ

私がある雑誌に寄稿した年初のびっくり10大予想の中に日経平均は12000円をつける、というのがありました。原稿を作ったのが12月初旬でしたから日経平均が9500円前後の頃だったと思います。ところが、その目標には3月はじめには到達し、直近では15000円台を大きく超えるところまで上がりました。

正月の新聞の「識者に聞く2013年株式予想」もほとんどが上限は12000円から13000円だったと記憶しています。


今、その株価はわずか3週間の間に2割近く下落し、13000円の攻防となってしまいました。半値戻しならば12000円台前半ぐらいまでの調整はあるのかもしれません。結局、12000円から上の部分は剥げ落ちてしまい、当初の予想通りの水準に納まるということなのでしょうか? 一方、為替もこのところ、ずるずると円高傾向となり、徐々に100円の壁が見えてきたような気がします。

この下落の理由は複合的要因でしょうけれど6月5日の下げだけ見れば、それは安倍首相の成長戦略第3弾が明らかな失望となったということであります。そういえば、鳴り物入りで登場した黒田日銀総裁もこのところの長期金利が大幅上昇し(債券価格は下落)したことでその対応に追われています。こちらもいろいろ原因は取りざたされていますが、とどのつまりは債券市場で日銀が一人相撲をしたということだろうと思います。その間に銀行などは国債を売り、日銀がせっせとそれを拾い集めた、ということです。結果として市場参加者が少ないですから価格は大幅にぶれる、という自明の理であるのですが、優秀な黒田総裁も市場の我侭と身勝手さの読みはしにくかったのかも知れません。市場は論理ではない、ということです。

さて、では安倍首相の成長戦略第3弾はなぜ、市場からスカンを食ったのでしょうか? それは発表の内容に新味がなかった、ということにつきます。そして、期待されていた法人税減税やカジノなどサプライズがなかったことに第3弾まで引っ張っておきながら、この程度か、という反応を示したということでしょう。

第1弾では女性の活躍の支援、第2弾ではリースの活用による設備投資拡大と農地の集約化でした。第1弾はともかく、第2弾では日経新聞はぼろくその評価をしました。第3弾も具体性に欠けるとし、厳しい論調になっています。

一方、経団連あたりが前向きに評価しているのは市場の期待は高すぎ、着実に改善を進めていくには「成熟ニッポンが息切れしない」スピードが望ましいという見方なのかも知れません。

ただ、グローバリゼーションと国家間競争は日増しに高まり、日本は企業ベースでは世界で戦う素地が出来ているものの政府レベルのプランは常に後手に廻っており、ダイナミックさに欠けております。アジアだけ見てもそのリーダーシップを日本が維持できるのか、韓国や中国にそのポジションを奪われるのか、まさにバトルであるわけです。そのためにも1歩ではなく、3歩も5歩も踏み込んで「異次元の成長」を遂げるプランが欲しかったことは事実だと思います。

PFI(民間資金を活用した社会資本整備)で有料道路や空港の運営を民間に任せるというのは小さい政府作りという意味からも評価できます。一般用医薬品のネット販売解禁や規制緩和も実に重要であり、何も批判される内容ではないのですが、風呂敷を広げていた割には目玉がないのです。お祝いの重箱に鯛が入っていないのと同じです。

私は栄枯盛衰ということを良く書きますが、まさか、安倍首相と黒田総裁の賞味期限がもう終わったとは思いたくありません。ここは踊り場で今後、具体案を含めた成長戦略の修正具体案が出てくることを期待したいと思います。

株価は落ち着きどころを探すと思いますが、成長戦略が良い、悪いは別にして最終案まで発表されましたからそろそろアク抜けだろうとは思っております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。