「シリアの内戦はスンニ派代表のサウジアラビアとシーア派筆頭イラン、その支援を受けるヒズボラ(レバノンのイラン系イスラム教シーア派民兵過激派組織)との宗派間の代理戦争だ」という。それだけではない。もう一つの代理戦争がある。それは「米国とロシアの軍需産業の競争だ」という。民主化運動のはずが、いつの間にか、代理戦争の様相を深めてきたのだ。
第一の代理戦争では、宗派間の面子をかけた戦いだ。サウジはスンニ派の盟主としてイランのシーア派にシリアを手渡すわけにはいかない。イランのアラブ圏侵略をなんとしても阻止しなければならない。
一方、イランはレバノンのヒズボラと連携してアサド政権を打倒し、その後、イラクと同様、シーア派主導の政権を樹立したいところだろう。こちらも、「絶好のチャンスを逃すわけにはいかない」という決意で臨んでいるはずだ。
第二の代理戦争では、ロシアがアサド政権を支持し、通常兵器を供給してきた。最新式S-300型地対空ミサイルシステム輸出問題ではイスラエルも懸念を表明しているほどだ。米国側としてはロシア製武器の拡大を阻止したい。ロイター通信によると、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は先月17日、ロシアによるシリアへの対艦ミサイル供与について「タイミングが悪く、遺憾だ」とし、シリア内戦を長引かせると非難している。
それだけではない。「米国内の軍需産業は戦争が必要だ。彼らはあらゆるロビー活動を通じて武器の輸出を目指している」という声も聞かれる。もちろん、軍需武器輸出は英国、フランスも強い関心を有していることはいうまでもない。
シリアで内戦状況となって以来、既に8万人以上のシリア国民が犠牲となり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、先月中旬の段階で150万人以上が戦争難民としてトルコや隣国に逃げている。その内戦が時間の経過と共に上記のような代理戦争となってきたわけだ。内戦が長期化する主因だ。
大小の戦争、紛争が過去、起きたが、代理戦争の様相を帯びた紛争も少なくなかった。冷戦時代には米ソ両大国の正面衝突は回避されたが、代理戦争は数多く発生した。冷戦終焉後、ソ連の解体で従来の2大国の代理戦争は少なくなった。それに反して、宗派間の紛争が顔をもたらし、国際企業間の利権争いが出てきた。
「代理」という言葉は、張本人の不在を意味する。不在の人間、国家に代わって戦い、血を流すのが代理戦争だ。シリアで現在展開されている内戦はシリア民族のアイデンティティ堅持の為の戦いではない。自国民同士が血を流し、殺害を繰り返す必要など本来はないのだ。
内戦前、隣人として助け合ってきたシリア国民が「お前はシーア派だ」とか「お前はアラウィ派だ」といってどうして武器を持って戦わなければならないか。
当方は先月、パリでシリア出身の女性弁護士に会った。シリア人の人権擁護の為に奮闘している若い女性だ。彼女は「私の母国シリアは美しい国だ。それが連日、破壊されている。美しいシリアを守って欲しい」と訴えた。これはシリア国民の共通の思いだろう。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年6月9日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。