「節約モード」のない国連機関 --- 長谷川 良

アゴラ

国連の潘基文事務総長は昨年、国連工業開発機関(UNIDO)のカンデ・ユムケラー事務局長を「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当事務総長特使に選出した。それを受け、UNIDOでは来週、第41回工業開発理事会(IDB)が開催され、ユムケラー氏の後継事務局長が選出される。


▲ウィーンの国連機関の正面入口(2013年4月撮影)


ユムケラー氏のUNIDO時代は終了し、いよいよ「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当特使の任務がスタートする。新しい事務所とスタッフは既に見つかった。

ところが、欧州のエネルギー問題専門家は「ユムケラー氏のスタッフは多くはエネルギー問題の素人であり、同氏の友人、知人たちの集まりに過ぎない。彼らは国連事務総長の給料を凌ぐ高給を受け取るが、その能力は甚だ疑わしい」という。

同専門家は笑いながら「国連事務総長が呼称した『全ての人の為の持続可能なエネルギー』と同じ名前の非政府機関(NGO)がオランダに存在する。彼らは経験もあり、専門家達の集まりだ。そのNGOの設立目的は国連事務総長が感動するぐらい同じだ。アフリカ諸国などの開発途上国への持続的エネルギーの確保だ。エネルギー問題の素人の人間を急遽集めて、資金だけを浪費するよりは、経験と実績があり、専門家グループのNGOと連携するほうが、国連が本来目的としていることを達成できるだろう」という。

なぜ、潘基文事務総長はエネルギー問題の素人であり、UNIDOを崩壊させたユムケラー氏に新設の任務を任せたのだろうか。UNIDOのことを少しでも理解している人ならば同じ疑問を呈するだろう。例えば、オランダのNGOと国連が連携すれば、無駄な出費も節約できるうえ、具体的な成果が期待できるかもしれないのだ。

国連機関は加盟国が拠出した資金で活動をする。しかし、予算を削るとか、節約するという発想は非常に少ない。UNIDOだけではない。例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)と国際麻薬統制委員会(INCB)は毎年、ほぼ同時期に世界の麻薬状況をまとめた数百ページの年報を公表する。問題は国連の両機関が同じような内容の年報を別々にまとめ、発表する必要があるかどうかだ。当方は一度、質問したことがある。国連関係者は「INCBが国際条約の監視を目的とし、UNODCの年報は世界の麻薬状況をまとめている」と違いを強調したが、両年報に目を通した限りでは「両機関が連携して一冊の年報にすることは十分可能だ」というものだ。大量の時間と紙を浪費するほどの必要性は感じられない。

あれも、これも、自分が汗を流して稼いだ金ではないからだ。自分の金ならば、その使用方法や能率を慎重に考えるが、手元の金は加盟国から提供されたものだ。利用しないで返金することはない、といった考え方が国連関係者には多い。

ウィーンの花形の国連専門機関、国際原子力機関(IAEA)で広報担当官がジュネーブに転勤することになった時、レストランで記者たちを招いて歓送会をした。IAEA広報関係者が後日、当方に話してくれたが、「広報部の予算が残っていたので歓送会を開くことにした」というのだ。与えられた予算は完全に使う、といった考え方がそこにはある。

金融危機が席巻し、世界のどの国でも今、節約が至上命令だ、「経費の節約」から「人件費・旅費の節約」まで、到る所で節約モードだ。唯一、例外は国連機関だろう。与えられた予算はゼロまで使わなければ損、といった浪費哲学が支配している。付け加えると、国連機関ほど腐敗と縁故主義が闊歩しているところはないのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年6月23日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。