「Breast is best for getting ahead」(子供の出世を望むなら母乳が一番、英研究)という最近の英研究を報道するAFP通信の記事が世界に配信され、日本語サイトにも掲載されていた。日本語記事の一部を抜粋すると以下の通り。
【6月25日 AFP】乳児期に母乳で育った人は、粉ミルクで育った人に比べて出世する確率が24%高く、社会的地位が下がる確率が20%減少する。このような研究報告が25日、医学誌「小児期疾患アーカイブス(Archives of Disease in Childhood)」に発表された。報告を行った英国の研究チームは、「我々の研究により、母乳には一生を通じて人に社会的利益をもたらす可能性があることが示され、母乳を与えることの健康上の利点をさらに裏付けた」としている。
私はいま、第三子の誕生に合わせて育休を取り、微力ながら父親業に奮闘している。妻にできる限り産後の身体を回復してもらうために、自分のできる範囲で家事育児を行っている。弁当作りやご飯の準備、食器洗い、掃除、洗濯、買い物、上の子たちの園の送り迎えや遊び、赤ちゃんの沐浴やオムツ替えなどだ。そのなかで、どうがんばっても自分にはできないこと、妻の代わりになれないことがある。母乳をあげることだ。
男は妊娠も出産もできないわけだが、母乳をあげることもできない。いくら男女平等を追求しても、こればかりは変えられない自然の理だ。三度も子どもを授かると、妊娠出産なんて大変すぎて男の自分にはムリという気持ちと同時に、一度でいいから体験してみたいという気持ちが湧く。大変な妻に代わってあげたいという思いと合わせてだ。授乳についてもそうで、赤ん坊がめちゃくちゃ美味しそうにオッパイを吸って、そして妻が至極の幸福のような平和な顔をして授乳している姿をみると、自分も体験してみたくなる。もちろん、搾乳した母乳やミルクを哺乳瓶であげることはできるし、妻が外出するときにそうしたことはある。でも、やっぱり自分の胸であげるのとは違うような気がするわけだ。
男の自分にとって、母乳はどう考えてもすごすぎるとしか言いようがない。これまで出なかったものが、出産すると自然に(適切な刺激とケアによって)出るようになり、赤ん坊の成長と共にものすごい量が生産される。単に栄養満点なだけでなく、免疫効果も抜群で、菌が蔓延する地上に初めて出てきた新生児を病気から守る役割も果たす。上記の母乳で子どもが出世するという研究も、母乳育児の心理的、社会的効果の一部を表すものなのだろう。さらに、母体の産後の子宮の回復を促し、体重を妊娠前に戻すダイエット効果もあるという。何から何までうまくできていて、まさに驚愕するわけだ。
世界的には母乳育児の割合が高いのは、スウェーデンやノルウェー、オーストラリアなど、Save the Childrenが毎年発表している「母親になるのにベストな国」の上位常連国だ。男性の家事育児の積極度も高く、育休もじっくり取れる制度が整っており、母乳育児もやりやすい環境にあるのだろう。驚くことに、オーストラリアでは母乳の「生産量」を価値換算すると年間約2千億円にものぼり、GDPのおよそ2%にも相当するとのこと。まさに驚愕だ。
日本では、厚労省の2005年データによると、産後三ヶ月で完全母乳が38%、混合が41%、合わせて79%が母乳で育てているようだ。産後一ヶ月ではそれぞれ42.4%と52.5%で、94.9%が母乳をあげている。北欧諸国と比べると完全母乳は少ないが、混合を含めると増加傾向にある。同じ調査によると、96%の方が母乳で育てたいと回答しているようで、病院の適切な指導と社会の育児環境がより整備されることを願いたい。ユニセフとWHOは母乳育児に積極的に取り組む「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を行っているが、日本では認定病院はまだまだ少ないようだ。
こういうことを書くと、母乳てはなくミルクで育てた方の配慮が欠けるとお叱りを受けそうだが、もちろん、母乳でなきゃだめたとか、ミルクで育てることがいけないというわけではない。母乳でなくても、子どもを育て上げる親の深い愛情に変わりはないだろう。この記事は、どうがんばっても母乳が出ない男の視点から感じる母乳への純粋な驚愕を記したものであることをご理解いだだきたい。
学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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@k_motoyama
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。