金(ゴールド)の価格が暴落しています。今朝のニューヨークでは1230ドル台まで下げ、目先、1000ドルという声も大きくなってきました。1900ドル台までつけた金がここまで下落するのはいくつか理由があるのですが、大きな理由のひとつにインフレの沈静化があります。
金が暴騰していたときは資源価格や石油価格も上昇したことが背景で、その理由は中国の内需主導による商品価格の高騰が理由でした。これはとりもなおさず、中国を含む新興国のインフレがその背景にありました。
当時アメリカで高騰する金価格が話題になったシナリオは新興国のインフレとドル安、欧州金融危機によるセーフヘイブンという背景のもと、アメリカ金融緩和で投機マネーが流入したということだったかと思います。投機マネーが最後の味付けをしたという点では2008年に石油価格が暴騰、暴落をしたシナリオと似ています。
ところが金価格の変調は中国での成長が鈍化し資源価格が下落とほぼ時を同じにしています。つまり、インフレ期待が下がってきたことで金利がつかない金は輝きを失った、ともいえるのでしょう。事実、アメリカでは緩やかながらも景気回復していると見られていますが、インフレ率2%には到達できていません。つまり、昔のシナリオであった好景気=インフレという方程式は崩れ去り、インフレなき好景気を作り出すことが「可能になった」ともいえます。
これはある意味、消費者には嬉しい話でもありますが、大きなリスクを抱えるストーリーラインでもあります。なぜなら、アメリカを含む先進国は日本が歩んだ道のりと同じ方向に走っているからであります。
いまや、アメリカもカナダも2%のインフレに到達するのはなかなか困難な事態となりました。理由はグローバル化と急速に進む価格破壊であります。価格破壊は産業のリーダー達が次々と打ち出す新製品に対してフォローワーたるライバルたちが模倣品や更なる改良商品を新製品発売から瞬く間に驚きの金額で発売する「もぐら叩き状態」が発生することで価格上昇が抑えられてしまっていることにひとつの原因を見出すことが出来ます。改良品開発が短期間で行われるようになったのはネットを通した情報拡散の影響が大きいでしょう。
更には中国を始め、ブラジルやロシア、インドを含む新興国の景気の息切れは更なる総需要を喚起することが出来ず、供給過多になっているのではないでしょうか? つまり、日本のデフレと同じシナリオが地球儀ベースで発生していると私は考えています。
とすれば、日銀黒田総裁は果敢なる金融緩和政策で脱デフレを掲げておりますが、暗雲が立ち込めているといえるかもしれません。それは世界がディスインフレと消費の「消化不良」を起こしている中で日本だけがインフレになるシナリオを描きにくいからであります。
金価格の下落は世界のインフレリスクへの懸念の後退ともいえ、先行き更なる下落を見る向きが多いということは日本も2%インフレの目標に対してあらゆる手段を講じなければ達成は困難になるかもしれない気がいたします。
私はもともと2%のインフレ到達は金融政策だけでは難しいという主張を続けてきています。今、更にそのハードルは上がってきたように感じるのは私だけでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。