吉野家、松屋、マクドナルドが各社最高価格帯となる500円前後の商品を投入するようです。これらの会社は今までデフレのリーダー的役割でしたが、マクドナルドの価格戦略が遂に壁にぶち当たったことはCEOの原田氏にとっては180度舵を切る、ということだったのでしょうか?
吉野家も「極」なる格安店の実験を行いましたが、結局それは顧客よりも同業他社との競争に映り、必ずしも褒められる経営ではなかった気がします。
価格破壊、10円でも安いものを求めるという消費者行動はメンタル的に囚われてしまった状態だったともいえるのかもしれません。なぜなら、売り手は安くないと顧客は来ないと信じきり、買い手は安くないと買う決断が出来ないという悪循環がずっと働いていたということしょうか?
ただ、これも長く続けると疲れてくるものでたまにはご馳走を食べよう、とか、ボーナスが入ったから買っちゃおう、という反動的動きは常について回っていたはずです。一方で、総収入が増えるわけではない、という中でどうやって財布の中身を増やすのか、という点については疑問であることは事実です。
80年代、サラリーマンの間でゴルフが爆発的に流行ったことがあります。当時、プレー、昼食、キャディー、高速代、ガソリン代を入れれば都内からならば一ラウンド3万円から4万円の覚悟は当たり前でした。私はおまけに上司の家に迎えにいき、送り届けさせられていましたから、朝5時に家を出て、戻りは夜の7時などということもごく普通でした。12月のゴルフは寒くて耐えられず、1番のティーショット前に熱燗をを飲んでからプレーしたこともあります。何が楽しかったのか、今思えば笑ってしまいます。
そんな時代、サラリーマンの年収は今と大して変わらないとしても、一回3、4万円かかるゴルフを月2回ぐらいする人はごく普通にいました。ではどうやって家計をやりくりしていたかと言えば、毎月の給与の収支は赤字、年二回のボーナスでどうにか収支の帳尻を合わせる、という感じだったと記憶があります。
更に小遣い稼ぎに株をやっても儲かった時代ですから、それで新しいクラブを買ったりするプラスのサイクルがあったと思います。
それは家計がギリギリでも将来よくなるという期待先行のポジティブな心理状態が人々の財布の紐を緩めた、ということかもしれません。
今、アベノミクスで前向きな空気が流れています。高額所得者層の消費が活発化しているという話に刺激され、今まで10円でも安い生鮮品を求めて自転車を漕いでいた奥様もデパートの上層階で1500円ランチを食べることが増えてきました。それは「ちょっと高いけど、あの奥さんに誘われたら行かないわけにいかないでしょう」という見栄もあります。「だから今日の晩御飯は残り物」というのは冗談とも本気ともつかない話になってくるかもしれません。
つまり、総所得が増えなければどこかで辻褄を合わせなければなりません。そうでなければ消費者金融業者が大繁盛する結果となるはずです。ただし、少なくともすこしでも無理をしてみようか、とか、今まで1000円以上するランチメニューなど考えたこともなかったけど、同僚がこの前食べていたの、おいしそうだったな、という刺激は出てくるのかもしれません。
これがメンタル的デフレ脱出論であります。
多分、アベノミクスの効果はまだまだ先ですから今の消費回復はメンタル面が主流だと思っています。しかし、この発想の転換は下手な経済政策よりずっと効果的かもしれません。そうならば、将来はよくなるんだ、という夢を見せることが政府にとって一番大事なことかもしれませんね。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年7月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。