路線価「下落率縮小」をどう読むか --- 岡本 裕明

アゴラ

毎年恒例の路線価が国土交通省から発表になり、ほぼ想定どおりの「下落率縮小」となりました。私は昨年、あと1、2年でプラスへの転換もありうる、と書きましたが、方向としてはそちらに向かっています。一方で、不動産がどんどん上がるという状況にはなく、選別された土地とそうでないところがはっきりしてくるという趣旨のことも書かせていただいています。


今回の路線価を見る限り上がる不動産、人気のない不動産がはっきりしてきていると思います。上昇した地域は大都市圏、大都市圏のサテライト地域、中都市圏の一等地が主流であるのに対し、いわゆる地方都市は下落傾向がより鮮明になっています。

この意味するところはREITなどを通じた不動産市場への資金の流入は高い水準を保っていますが、その投資基準はやはり、リターンが得られるところであります。それはとりもなおさず、人口が多いところか繁華街など投資尺度に見合うものであることが重要であります。残念ながら地方都市は活力が奪われつつあるのが現状で、投資の魅力が少なくなってきています。

たとえば9%の値下がりとなり下落率の上位に入った高松市。私の親戚がいる関係で何十年とこの街を距離を置きながら見続けてきました。その街の昔から変わらないそのスタイルとは「若者は大阪に向かう」ということでしょうか? 東京は未知の世界だけど大阪は憧れ、というスタンスは変わりません。この街に時々来て思うことは駅前のビジネス街は立派だけど人通りがまばら、ということでしょうか?

ましてや徳島や高知になればその度合いはもっと高まります。結果として地価の下げ止まりを防ぐ手段がないのです。

一方、大都市圏には自然と人が集まり、ビジネスが集積し、投資マネーが入り込みます。そして、外国人がビジネスの観点から見れば日本=東京というイメージは8割以上のマインドシェアを占めていると思います。それは投資は入れたお金が回収しやすいということが最大のポイントであることを考えれば地方都市にマネーを投下しても売りにくいため、端から選択肢に入っていない、ということであります。

同じことは同じ東京都内でもいえます。港、品川、渋谷、世田谷など大規模開発が進み、高所得者や外国人が多く住むエリアは格好の投資対象でありますが、板橋区や北区の奥地にある1億円の物件は簡単には売れないのです。

何を意味しているかといえば、今の土地価格の回復は外国人投資家を含む投資マネーが支えるところが大きい、ということです。

日本人の不動産実需は明らかに変わってきています。ローンで組めるのはせいぜい4000万円が一杯。ならば、頭金を親から借りたとしてもせいぜい、6000~7000万円の物件が上限になります。では、なぜ、億ションが飛ぶように売れるのかといえば、戸建てなど土地持ちの人のライフスタイルのチェンジの需要であるからです。

たとえば、定年を迎えた夫婦が都内の時価2億円の戸建てに住んでいるとします。子供のことは別にすれば、戸建てのライフは高齢者には厳しくなります。ならば、売却して1億のマンションに住み、残り1億円を手元に置いておけば悠々自適の老後の生活が待っています(税金の部分は無視しています)。

このライフスタイルのチェンジですが、実は私がカナダの不動産開発をしていた際に当地で最初に実践し新しい市場を作り出すことに成功しました。今、バンクーバーではごく当たり前になりました。多分ですが、日本でもその傾向は続くと思います。

まとめると、日本の不動産価格の回復はまだら模様になりそうです。そして、都内は2015年相続税問題を含め、土地の供給が増えますから値上がりには一定の限界があるとみています。一般サラリーマンが取得できる価格範囲のマンションは人気エリアでは引き続き高い需要が期待でき、それに付随する商業施設などへの投資資金も流入すると思います。

路線価の上昇で笑える人は少ない、というのが私の見立てであります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年7月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。