ラマダン休戦が実現できない理由 --- 長谷川 良

アゴラ

国連の潘基文事務総長は7月8日、シリアの内戦関係者、アサド政権と反政権グループに対して、ラマダン(断食月)開始前に「イスラム教の聖なる期間であるラマダンを重視し、紛争を停止し、武器を置くべきだ」と述べ、ラマダン休戦の実施を要求した。

エジプトでもモルシ大統領が解任された後、軍とムスリム同砲団側との衝突が生じているが、ラマダンが開始されたことで紛争が静まるのではないか、という淡い期待がある。


しかし、これまでの経験からラマダン休戦が実行され、1カ月間、紛争間の衝突が完全に停止されたことはほとんどない。なぜだろうか。

ラマダン期間、敬虔なイスラム教徒は寺院に集まり、太陽が沈むとラマダン明けの食事を一緒にとる。すなわち、ラマダン期間はいつもより頻繁に寺院に集まり、指導者から話を聞く機会が多い。そこでイスラム指導者が憎悪発言や政治発言を繰り返せば、信者たちへの影響は普段より大きい。

中東問題専門家のアミール・べアティ氏は「ラマダン期間、紛争が絶えない理由はイスラム寺院の説教者にある。彼らが寺院に集まった教徒たちにコーランを通じて政府批判や紛争勢力への中傷などを繰り返し、信者たちを煽るケースが少なくないからだ」という。

同氏は「イスラム教徒はキリスト信者のように個人意識が成長していない。彼らは集団で行動をする。ラマダン期間はその機会が普段より多い。だから、断食明け後、デモや政治活動に走るケースが出てくる。ラマダン休戦が実現できない理由はイスラム教徒の集団主義と指導者の憎悪説教にある」という。

確かに、キリスト教徒の場合、日曜礼拝の時以外、信者たちが集まるという機会は限られている。その礼拝ですら、参加しない信者たちが多数を占めているのが現実だ。一方、イスラム教徒は何かあれば直ぐに寺院に集まる。そして人が多数集まれば、どうしても感情が高まりやすい。

ラマダン期間、国連の食堂は普段より空いている。イスラム教徒の国連職員が昼食を取らないからだ。イスラム教徒でも持病のため薬を飲まなければならない職員は断食しない。その場合、イスラム教徒は慈善行為(喜捨)をする。貧しい人に献金したり、食事に知り合いを招待することで、断食できない償いをする。

当方は、薬を常用する友人のイスラム教徒記者とラマダンの時、国連の食堂で昼食する機会が多い。その時はいつも彼の奢りだ。彼も1人で昼食はとりたくないので、当方を誘う(断食中のイスラム教徒が一人で昼食している同胞をみたら、「彼はラマダンを守っていない」と中傷するかもしれない)。当方は、といえば、彼が奢ってくれることを知っているので、彼の誘いを断らない。このようにしてラマダン期間、異教徒の当方とイスラム教徒の友人は平和的に共存しているのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。