『実戦に役立つ相場格言』という小冊子は、1953年3月のスターリン暴落を「予言」したことで知られる石井久氏の格言を集めたもので、おそらくは、1980年頃にできたものである。
面白い格言が多いが、私が一番好きなのは、「株価は価値プラス、需給プラス、人気」というのだ。これは、株価が価値と需給と人気の三つの要素で決まることを定式化したもので、けだし、卓見である。
石井氏に代表されるような、いわゆる「相場師」の方々は、「価値」よりも、「需給と人気」のほうに重点を置いていたと思われるが、私は、いうまでもなく、「価値」に重点を置く。しかし、その差は、根本的な立場の差ではなく、程度の差にすぎない。
なぜ程度の差にすぎないかというと、石井氏も私も、企業価値分析に立脚した上で、価格変動の機微が作り出す投資機会に着目していることに、何ら差がないからである。その意味で、石井氏が、価値と需給と人気の三つを挙げるについて、価値を最初に置き、次に需給と人気としたことは、非常に重要なのである。価値判断がしっかりしているからこそ、需給と人気に基づく価格変動の中に、投資の機会を見つけることができるのである。
次に、「ストに売りなし」はどうだ。こ最近の日本では、ストライキなど、ほとんど起きない。ストライキが起きるような雇用情勢に、今の日本はない。このことと、株式市場の低迷には、もちろん、深い関係があるのであろう。昔の国鉄のストライキなんか、懐かしい。そのころは、株価も上がっていたのだ。
「持株は買値にこだわるな」。これなどは、格言というよりも、科学的な論理である。実際、投資判断は、将来へ向かってのみ、意味があるので、いくらで買ったかという歴史的事実は、判断の要素にはなり得ないのだから。
最後に、もう一つ。「買いたくない株は売れ」。これは、実にいい。趣旨は、持っている株全てについて、あるいはポートフォリオの中の銘柄全てについて、保有することの積極的な理由が要るということである。新規に買いたくないような銘柄は、保有し続けることもできない。投資が、常に将来に向かってのみあり得ることを、明確に表現したものとして、私は好きである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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