鎮静化し始めた“再生可能エネルギー論調” --- 石川 和男

アゴラ

昨日の日本経済新聞朝刊に「ドイツの不都合な真実 風力発電に送電網の課題」という記事があった。再生可能エネルギーに関して最近では稀に見る冷静な評価をしている論調だ。昨年7月から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が始まった。マスコミでは脱原発ムードや電力会社叩きムードがまだまだ鎮静化していないせいか、その反射として再生可能エネルギーに関する希望的報道が今でも多い。


このブログの先の記事(“原発23基分”と誤報される地熱発電)でも書いたが、太陽光も風力も地熱も水力も国産エネルギーだから有効活用していくべきではあるのだが、如何せん今の技術では原子力や化石燃料に比してコスト面で大きく劣るのが実状だ。資源エネルギー庁が公表している次の2つの資料を見ても、それは明らかである。

日経記事にも書いてあるように、再生可能エネルギー普及の手本として真っ先に名前が挙がるのはドイツである。スペインも同様だ。エネ庁が出している次の資料でもわかるように、ドイツやスペインでは再生可能エネルギーの電源構成に占める割合は比較的高い。日本では再生可能エネルギーをまだまだ増やす必要があると訴えたいのだろう。その気持ちはよくわかる。




風力は再生可能エネルギーの中でも最も有望な部類に入ると思われる。次の図表の通り、再生可能エネルギー先進国とされるドイツとスペインでも、水力と並んで風力の発電量は多い。


再生可能エネルギー発電量の増加に伴い、FITに係る負担金も増加してきている。次の図表に書いてある通り、日本ではまだ負担金の水準も比率もそれほど問題になる程度にはなっていないと思われる。


次の2つは直近のエネ庁資料。これを見る限り、エネ庁当局は風力開発を前進させていく姿勢であると見て取れる。風力開発に有望な地域も特定されつつあるようだ。国産エネルギーの確保を進める観点からは、環境アセスメントなど規制改革を行うことも望ましいことではある。





しかし、ドイツやスペインの前例は図らずも再生可能エネルギーを急速に増やすことへの警鐘を鳴らしていると見るべきである。これまでは、政治からも行政からもマスコミからも、再生可能エネルギーについて否定的な見解が出されることは殆どなかった。

本当に再生可能エネルギーを浸透させていくのであれば、『好都合な真実』と“不都合な真実”の両方を同時に論いながら進めていくべきである。好都合なものばかり取り上げる進め方は禍根を残す。原子力発電や核燃料サイクルがそうであるように、いざ逆風が吹いてきた際に対抗し難くなり、回復させるのに膨大な労力と長い時間を要することになる。


編集部より:この記事は石川和男氏のブログ「霞が関政策総研ブログ by 石川和男」2013年7月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった石川氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は霞が関政策総研ブログ by 石川和男をご覧ください。