小売・飲食業の収益力は35歳が分岐点 --- 山口 俊一

アゴラ

企業の社員年齢と収益力の話。

私は以前より、さまざまな業界で「30歳 vs 40歳の戦い」が行われている、と主張してきた。

社員の平均年齢が30代前半のうちは利益が出しやすいものの、35歳を超えて40歳に近づくにつれ、収益力が急激に悪化してくる。多くの業界で、30歳前後の会社と40歳前後の会社がしのぎを削っている。

その顕著な例が、小売業や外食産業だ。


たとえば、以下は家電量販店上位企業の「平均年齢」の若い順に、過去3期分の「連結売上高対経常利益率」を並べてみた表だ。過去3期分にしたのは、業界の経営環境が比較的良かった3年前から悪化した昨年度までをならすためだ。ケーズホールディングスやエディオンは、持ち株会社のため、平均年齢がやや高めに出ている。また、非上場のヨドバシカメラだけは、平均年齢は推定で、業績は昨年単年度のデータを採用した。

多少のデコボコはあるものの、平均年齢下位5社と上位5社では、キレイに利益率が分かれている。

ケーズホールディングスは、店舗も含めた全社員にすれば35歳を切ると推測されるので、35歳を境に収益格差が開いていることになる。

通常、小売業や外食産業などの店舗ビジネスは、店舗数が拡大している間は、平均年齢は上がらない。ところが、出店ペースが落ちた途端、一気に平均年齢が上昇していく。ヤマダ電機も、ついこの前までは30歳を切っていた。

小売・飲食業の主要職種である販売職や接客職は、20代のうちは商品知識や販売スキルが上がっていくが、一般的に30歳前後で成長スピードは鈍化する。当然、販売高など生産性は頭打ちになる。一方で、30歳より35歳、35歳より40歳の方が給与水準は高くなるのが通常だ。どの会社も、30歳で昇給ストップにはしないし、家族手当などは30歳以降で増えてくる。

要するに、社員1人ごとの損益(販売高─人件費)が悪化していくのである。

メガネ業界も、長年のガリバー企業、三城ホールディングス(40.9歳)が陥落し、眼鏡市場のメガネトップ(34.3歳)やJINSのジェイアイエヌ(28.7歳)が、市場を席巻している。

ドラッグストア(持ち株会社が多く、正確には把握できないが)も、主要企業の平均年齢は30歳を超えて35歳前後に差し掛かってきた。もともとは高収益の業界だが、今後の収益確保が難しく、業界再編が急速に進んでいる。

このように、小売業、外食産業で顕著な平均年齢と収益力の関係だが、それ以外の業界でも概ね同じことがいえる。

日本企業全体の社員年齢は、すでに平均41歳となった。

要するに、日本企業全体が「社員高齢化に伴う、低収益化の法則」にはまり込んでいる。しかも、65歳定年時代を迎え、今後とも企業の高齢化は進んでいく。

国民全体の平均年齢は、日本45歳に対して、中国34歳、インドは何と25歳。

この法則に従えば、中国企業は踊り場を迎え、インド企業はまだ若すぎで10年~20年後くらいから黄金期を迎えることになる。

国全体の少子化対策はなかなか進まないが、個別企業の対策としては少しでも組織を若く保てるようにすることだ。

しかし、売上拡大が止まった会社で、これを実現するのは至難の業でもある。

山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”