米雇用統計、数字ではみえない回復の質とは --- 安田 佐和子

アゴラ

米雇用統計、7月分こそ非農業部門就労者数(NFP)は16.2万人増と4ヵ月ぶり低水準でしたが、足元は20万人増に近いペースで増加していました。量的緩和(QE)が9月に縮小してもおかしくはない──全米のエコノミストをはじめ市場関係者をして、そう予想するのが順当な「数字」だったんです。

ただし、それはあくまで「数字」という表面的なお話でした。


JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ米主席エコノミストが指摘していたように、7月の家庭調査を切り取ってみるとウェイトレスやバーテンダーをはじめとしたパートタイムが……65%を占めていたんですよね。7月の時間当たり賃金が前月比で減少していたのも、いたし方ありません。

ムーディーズ・アナリティックスが米労働省のデータを分析したところ、年初来からの雇用増のうち低賃金の職が全体の61%に達しているんですよ。中程度の賃金はわずか22%に過ぎません。

フォーチュン誌によると、7月分のNFP16.2万人増のうち主要な産業セクターを紐解くと低賃金の職が8万5600人、高所得は6万2400人でした。ちなみに平均の週当たり賃金が824ドル(8万1580円/4週当たり32万6320円)のところ、パートタイムが大勢を占める娯楽は平均を大幅に下回る349ドル(3万4550円/13万8200円)、小売でも520ドル(5万1480円/20万5920円)です。

年初来の雇用増をみると、さらに顕著です。ハフィントン・ポストによると週当たり労働時間が35時間以下と規定されるパートタイムは、77%に及びました。第一の理由として医療保険改革、オバマケアが挙げられます。1年の猶予期間を設定しているとはいえ正社員に医療保険の加入を義務付ける手前、雇用者はパートタイムあるいは契約社員を採用しがちなんです。私の周囲でも、特にwebデザイナーやITエンジニアをはじめフリーランスの方が増えておりますよ。人材派遣に登録すると、あちらこちらでお声が掛かるので、仕事には困らないんだとか。

1年前の比較だというのに、パートタイムの割合増加はこんなに顕著!

(出所 : フォーチュン誌)

ただし医療保険に加入してませんし、何より賃金の支払い日が会社の都合なので、決まった期日に受け取ることができないんです。例えば、給与が小切手で郵送されるまで待たなければならず家賃をはじめ数々の支払いが滞るリスクをはらみ、非常に不利なんですよね。正社員より、厳しい環境にあることは間違いありません。

もうひとつの理由は、ご想像の通り米景気回復の足取りの鈍さが挙げられます。米成長率は1~3月期に1.1%増、4~6月期に1.7%増と、FOMCメンバーの予想に遠く及ばず。前回のFOMC声明文がハト派寄りで低インフレを懸念する内容が盛り込まれましたが、雇用回復の質を踏まえると納得です。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年8月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。