空気に勝つ勇気

生島 勘富

今日は終戦記念日。
日本が、なぜ、あのように悲惨な戦争に突入してしまったのか考えずにはいれません。

私は、一番の原因は、軍部(大本営)も、朝日新聞も、一般市民も、みんなで空気を作ってそれに流されてしまったことにあると。空気に勝つ勇気がなかったことじゃないかと考えています。

最近でも、間違った空気を作り、それに流されるということが原発事故でも起きてしまった。
日本人は、未だに根本的な問題が治ってないのではないでしょうか。

そんなことから、全く戦争とは関係ありませんが、私の属するIT業界でも同じように空気に勝てないということについて考えてみたい。


■IT業界が続ける詐欺行為

ある出荷工場から、コンテナ一杯分にあたる品物を出荷したい。
そのとき、コンテナ車で運ぶ方が出荷工場にとって効率的か、軽トラックで何度も往復して運ぶ方が効率的か?

こんなことは誰でも分かるでしょう。
もちろん、コンテナ車で一回で運んだ方が出荷工場にとって効率的ですね。
しかし、こんなことが理解できない人が、IT技術者を名乗って、IT技術者として仕事をしているのです。

というのも、WEBシステムなどで使われるデータベースサーバの負荷について、「分割して処理する方がデータベースサーバの負荷が軽くなる」という技術者が大勢います。
一括処理と分割処理を比べると、図の様になります。

1回の処理

確かにピークは抑えられます。彼らは、量の概念なしに放射能に脅える人達と同じように、(処理)時間の概念がないようで、ピークが高くなければ負荷が減ったと考えているようです。

昔のハードウェア環境でよく行われていた「夜間バッチ」では分割しなくてはどうしようもない処理もありました。しかし、現在、サーバの負荷を抑えないと行けないのは、バッチ処理ではなく、アクセス数が膨大になったときの処理です。

アクセスが集中すると図の様になります。

アクセス集中時

どちらが負荷が高いか簡単に分かると思います。当たり前のことですが、分割した方が処理量が増えているのですから、数倍~数十倍遅い上に、一括処理したときよりも、少ないアクセスでシステムダウンする可能性が高まるわけです。
メリットは「理解できないぐらいできの悪い技術者に合わせる」ことしかありません。

残念なことに、本当に多くの技術者(とは認めたくないのですが……)が上の様に考え、わざわざ処理を分割して遅いシステムを組んでいます。
そして、現実に問題も起きているのですが、それを「間違いだ」と指摘できるお客様もいないでしょう。

数倍~数十倍レスポンスが遅く、ハードウェアも高価にする必要があり、開発費を多く掛けて売りつけている程度の話ですが、分かってやっているなら詐欺行為で、分かってないなら「二度と技術者を名乗るな!」と私が怒る理由が理解できると思います。

■空気が出来たら無批判に受け入れる

ハードウェアの能力が低かった頃は、様々な理由でシステムダウンが起きていました。
その中でも、特にデータベースサーバの処理能力を超えた場合、非常に大きなシステム障害となり、多くの技術者はこれに脅えていたのです。
そのとき、誰かが「多少遅くても、シングルポイント(増強しにくい)のデータベースサーバに処理させるより、他のサーバ(アプリケーションサーバ)で分割して処理させた方がよい」と言いだし、それが空気として伝搬しました。

そんな空気ができたら、こんな間違いを検証もせずに信じてしまう弱い人はいるものです。
    # システム屋としては絶望的にセンスがない。
    # こんなことを言ってしまってた人は、自ら辞めるべきですね……。

結果、コンピュータシステムを使って効率化する仕事をしている人が、中学生でも分かるような間違いを何年という単位で続け、現在も間違い続けている人が大勢います。しかも、個々の技術者がやっていることなら、「下手くそやな~」ですむ話ですが、プロジェクトの方針、部の方針、最悪、会社の方針としている所も、残念ながら少なからずあるのです。本当に恐ろしいことです。

そんな会社では、何年も掛けて、データベースサーバで処理させないような教育方法を確立し、多大なコストを掛けてデータベースサーバで処理させないようにするためのツールを作ってきました。その中で育ってきた人達が、IT業界の中核を締めるに至っています。
ですから、説明されても、こんな単純なことも理解できない人まで存在する……。
実際、「そんなわけない」とコメント欄を何度も荒らされましたしね……。

もちろん、指摘されて気づく人も出ますが、気づいたあとどうするか?
今までウソをついて売ってきたことを顧客に謝るか?
謝れない。
社内体制も急には変えようがないから詐欺行為を続けています。
全く非道い話です。

引き返す勇気は誰も持ってない訳です。

そういう人達を見る度に、「大本営の石頭達も、こんな風だったんだろうな~」と……。
兵站も理解していない参謀がほとんどで、間違いに気づいても「玉砕」で終わらせようとした。というのは、こんなことも分からない馬鹿がIT技術者を名乗り、間違いに気づいても詐欺を続ける。というのにそっくりです。

戦争に比べたら、極小さい話ですが構造は同じです。
恐らく、IT業界に限らず、どこの業界にもあることだとは思います。

その業界の空気に入ったら「間違っている」となかなか言えないものですが、そういう人が「戦争に至る空気」になったとき、戦争を止めることができるのでしょうか?

原爆事故に遭った福島の人達に行った非道い仕打ちを見れば、戦前の空気に放り込まれたら、「開戦せよ!」と迫る人でしょうし、仮に、東電に入ったら、自ら情報を隠す人になるのでは?

戦後68年。日本人の中には、戦争に至った根本的な問題点を、未だに治せていない人が大勢いるのではないでしょうか。

■余談です

まあ、今更どうしようもないかも知れませんが、もし、近くにあなたの会社が依頼しているシステム会社の人がいたら、こう聞いてみてください。

「データベースサーバの処理量がパンクしたら大変と聞いたけれど、どんな対策を取っているのですか?」
「そんなことがないように、できる限りアプリケーションサーバで処理しています」

と応えた技術者はアウトです。

株式会社ジーワンシステム
生島 勘富
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