「日本禁煙学会」へのお願い --- 長谷川 良

アゴラ

日本人ブロガーの記事を読んでいると、公開中のアニメ映画「風立ちぬ」(監督宮崎駿)の中で喫煙場面が多いということで禁煙派から強い反対の声が上がっているという。ウィーンに住んでいるので「風立ちぬ」を観たことがないし、日本映画の話題といってもピンとこないタイプだが、今回は例外だった。当方が宮崎監督のファンだからではない。その監督の作品での喫煙場面に文句をいっているNPO法人の日本禁煙学会の存在を初めて聞いたからだ。
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▲仕事の合間、外で喫煙するIAEA職員たち


当方はこのコラム欄で数回、国連内の売店でタバコを販売していると追及し、売店からたばこを追放すべきだと主張してきた(「国連免税店の危うい存在理由」2008年6月9日、「天野事務局長,『決断』の時です」2010年8月26日、「『たばこ追放』実行できない国連」2011年6月1日)。そこに今回、著名な監督の作品に文句をつけている日本禁煙学会の存在を知った。そこで同学会関係者に国連の売店のたばこ販売を禁止させるように圧力を行使して頂きたい、というのがこのコラムの狙いだ。

5月31日の「世界禁煙デー」に潘基文事務総長は毎年、「たばこの消費は中毒性があり、20世紀だけでも1億人がそのために死去した。われわれが何もせずにいれば、今世紀には10億人の人々がその被害を受けるだろう」と警告を発している。ジュネーブに本部を置く世界保健機構(WHO)は喫煙とがんの関係を指摘し、警告を発している。2003年には「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(FCTC)が採択され、これまで170カ国以上が加盟している。

その国連の花形専門機関、国際原子力機関(IAEA)の所属の地下売店(Commissary)でたばこが売られているのだ。関係者によると、「売店(免税店)の売上を支えているのはアルコール類と共にたばこ類だ」という。税抜きだから、たばこ価格は国連外で買うより30%以上安い。喫煙家にとっては大助かりだ。国連売店でたばこを買うことができるのは国連職員だけではなく、外交官からOPEC(石油輸出国機構)などウィーン駐在国際機関関係者だ。

とまれ、国連事務総長が「No Tobacco」と叫び、たばこ関連疾患から人類を救うために禁煙促進に努力している時だ。WHOが禁煙を実現するため条約を作成し、「たばこフリー・イニシャチブ」(TFI)キャンペーンを進めている時だ。にもかかわらず、肝心の国連の売店でたばこが堂々と売られているのだ。これは国連の典型的な自家撞着だ。

当方は過去、IAEAの天野事務局長に売店でのたばこ販売を中止すべきだと叫んできた。残念ながらその声は無視されてきた。天野事務局長はイランの核問題の対応に忙しく、たばこの販売問題まで頭が回らないらしいのだ。

そこで日本禁煙学会の登場を願いたいのだ。宮崎監督に対して堂々と正論を主張した学会だ。国連の厚い官僚主義の壁など障害とはならないだろう。IAEA所属売店のたばこ販売の現地査察をし、天野事務局長には禁煙の重要性を再度諭して頂ければ幸甚だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月18日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。