きのうは姫路の青年会議所の主催する討論会で、小出裕章氏と討論した。どうせ話は噛み合わないだろうと思っていたが、意外に一致点があった。特に国連科学委員会やWHOの調査によれば、福島事故の放射線による死者は出ないこと、石炭の健康リスクは原発よりはるかに大きいことについては彼も同意した。
本書は、今や環境への最大の脅威は石炭であると指摘する。WHOによれば、喫煙なども含む大気汚染の死者は世界で年間320万人に上るが、中でも最悪の汚染源は石炭で、その健康リスクは少なくとも原子力の500倍は大きい(しかもこれは地球温暖化を含んでいない)。
特に中国は世界の石炭の半分を燃やしており、さらに毎週1基以上のペースで新しい石炭火力発電所を建設している。これを止めるには、原子力しかないと著者は主張する。ただし軽水炉はコストの点でシェールガスなどに劣るので、もう未来はない。著者の推薦するのは、第4世代と呼ばれる安全な原子炉、特に統合型高速炉(IFR)である。これは前IEA事務局長の田中伸男氏も注目している。
もともとIFRは80年代からアメリカで高速増殖炉の改良型として開発されていたものだが、プルトニウムを燃料とするため、核燃料サイクルをやめるというアメリカ政府の方針で開発が打ち切られた。しかしその後も、GEや日立などがその技術を継承したモジュール型の原子炉を開発しており、第4世代の中ではもっとも有望とみられている。プルトニウムを100%燃やせるので、経済性も高い。
IFRの最大の特徴は、核反応が暴走して過熱すると自動的に運転が止まる受動的安全装置である。上の図のようにナトリウムのプールの中にプルトニウムを入れた構造になっているため、外部への冷却材の漏洩が起こらず、大気圧で運転できるので高圧の蒸気による事故も起こらない。
原発は何でも危ないと思っている人がいるが、炉心溶融は軽水炉に固有の欠陥であり、設計によって防止できない。その点で、小出氏も参加した伊方原発訴訟で「炉心溶融の可能性は否定できない」とした原告住民の主張は正しく、まさに福島で実証されたのだ。
しかし炉心溶融の起こらない原子炉は可能であり、この他にもトリウムを利用した原子炉など多様な原子力2.0が開発されている。火力発電のリスクは原子力よりはるかに大きいのだから、原子力をやめて火力に替える政策は大気汚染や気候変動の原因になり、健康被害を増やす。それは「金より命」ではなく、「金も命も」失う道である。