エジプト暫定政権のファハミー外相は8月18日、国内外のメディアが「治安部隊がモルシ派のムスリム同胞団を弾圧している」と報道していることに「事実とは異なる。正しい報道をすべきだ」と要求したという。
治安部隊がムスリム同胞団メンバーを強制的に排除しているフィルムが欧米メディアに流され、ここ数日間で700人以上の同胞団メンバーが殺害されたことを受け、欧米社会では暫定政権への批判が高まってきたことは事実だ。
米国は来月予定のエジプト軍との合同軍事演習を中止する一方、エジプト軍への年間13億ドルの支援を再考する姿勢を示唆。欧州連合(EU)もエジプト支援停止を協議するなど、エジプト暫定政権の武力行使を批判する声が強まっている。ムスリム同胞団は「治安部隊は無抵抗の市民も射殺し、寺院を破壊している」と批判、国民に聖戦を呼びかけている。
それに対し、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦の3国はエジプトの暫定政権を支持、総額120億ドルの支援を約束。サウジのアブドラ国王は16日、「テロと対決するエジプト政府を支持する」との声明を発表したばかりだ。国内でイスラム過激派の台頭を恐れる3国はエジプトの情勢に神経を尖らしていることは周知の事実だ。
治安軍とムスリム同胞団との衝突に関する報道をみていると、イスラエルとパレスチナ人の衝突を思い出す。イスラエル側は「パレスチナのテログループの攻撃」を批判し、パレスチナ側は「イスラエル軍がパレスチナの子供を殺害した」と主張し、双方が相手側の攻撃を批判する、といったパターンだ。欧米ではどちらの主張が正しいのか、判断しかねるケースが少なくない。
特に、数百人が犠牲となった今回のエジプトの衝突では、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラが暫定政権を批判し、同胞団の主張を支援する報道を続けているため、欧米社会に少なからずの影響を与えている。
一方、コプト派正教会の最高指導者タワドロス2世は「同胞団がコプト派教会を襲撃し、信者たちを殺害している」というニュースに対し、「それは間違いだ。犠牲はキリスト者だけではなく、イスラム教の兄弟も同様だ。テログループが襲撃しているのは教会だけではなく、あらゆる施設を攻撃して破壊を繰り返している」と説明。そして「キリスト者も大多数のイスラム教の兄弟姉妹も厳しい環境下で助け合って生きている」と述べ、イスラム教徒によるキリスト者迫害報道は誇張だと主張している。
スンニ派とシーア派の抗争、ムスリム同胞団とコプト派の関係といった画一的な枠組みから状況を判断すると見誤る危険性も出てくる。イスラム派過激派のテログループがその枠組みを悪用し、騒動を扇動することが十分考えられるからだ。
なお、中東問題専門家アミール・ベアティ氏は「エジプトの大多数の国民は政情の安定と日常生活の回復を願っている。国民の多くは暫定政権を支持している。混乱は同胞団の一部過激派と外部勢力によって扇動されている」という。
カタールのアルジャジーラ放送の同胞団寄り報道については、「小国カタールがアラブの盟主サウジやエジプトを敵に回しムスリム同胞団を支持できる背後には大国の支援があったからだ。ズバリ、米国だ。米国は一時期、ムスリム同胞団に期待し、それを支持することでアラブ全域の実権を掌握していこうと考えていた。だから、モルシ前政権に対しても直接批判することを控えて静観してきた。しかし、同政権がイスラム色を強めていくのをみて、失望したわけだ。米国は過去、エジプト軍との関係を堅持する一方、同胞団との関係構築を模索する、といった綱渡り的な政策を実施してきたわけだ。オバマ政権の政策が間違いであったことは今回、明確になった」という。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月20日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。