北朝鮮最高指導者・金正恩第1書記の早期訪中の実現を期待している。北朝鮮の核実験後、険悪化したきた中朝関係の正常化を願うからではない。金正恩第1書記の訪中が「初めて」か、それとも第1書記就任前にも訪中し、当時の胡錦濤国家主席と会見していたのか、という問題に終止符を打つことができるかもしれないからだ。
朝日新聞は2009年6月16日と18日の2回、1面で北最高指導者・金正日労働党総書記の後継者に決定したといわれていた3男・正雲氏(正恩第1書記)が同月10日頃、中国を極秘訪問し、胡錦濤中国国家主席と会談したと報じ、詳細な会見内容を掲載したことがあった。他紙は朝日の会見記事にショックを受けた事は言うまでもない。
ところが、その直後、中国外務省側は「国家主席は金正恩氏と会見していない」と表明し、朝日の記事を全面否定した。すなわち、正恩氏の訪中記事と胡錦濤国家主席会見報道は朝日新聞の北京特派員(当時)の全くの作り話だったというのだ。
当方も当時、知人の北朝鮮外交官に朝日の記事への感想を聞いた。知人は笑いながら、「クレージーだ」という。「どうしてそう思うのか」とその根拠を尋ねたら、「報道内容はわれわれの通常の思考では受け入れ難いからだ」と答えた。
会見記事の情報源は金総書記に近い北の要人と中国駐在の北関係者と書いてあった。知人は「彼らは多分、朝日から金をもらったのだろう。金を貰った北関係者が作り話を提供したのではないか」と笑いながら説明した。一方、朝日新聞社は「正恩氏、国家元首と会見」の記事の誤報説に対して、これまで沈黙している。
そこで金正恩氏が年内に訪中し、習近平国家主席と会見すれば、金正恩氏が以前も訪中し、当時の胡錦濤国家主席と会見していたかどうか、中朝両国の国営メディアを見れば自然に判明するのではないだろうか。これが当方の「金正恩氏の訪中期待」の本当の理由だ。
金正恩氏が実際、2009年6月、極秘に訪中し、胡錦濤国家主席と会見していたことが事実ならば、朝日新聞のスクープ報道を評価することにやぶさかではない。しかし、当時の会見記事が全くの作り話となれば、記事を書いた北京特派員の責任問題だけではなく、朝日新聞社も読者の前に謝罪表明をしなければならないだろう。
その後、作り話の会見記事を報道した背景について、各分野の専門家から構成された委員会を設置し、じっくりと検証していただきたい。もちろん、検証内容は紙面上で逐次報告してもらいたい。
朝日新聞は1950年9月27日の夕刊で日本共産党の伊藤律と会見したと報道したが、3日後、朝日新聞記者の作り話であったことが判明した。すなわち、朝日新聞には架空会見の前科がある。金正恩氏の訪中と中国国家主席会見記事が“第2の架空会見記事”と揶揄されないことを願うだけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月22日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。