菅官房長官は、先週の記者会見で「消費者物価指数が+0.7%になって、日本もやっとデフレを脱却した」と言って失笑を買いました。プラスになった最大の原因は、石油製品と電気代が8%も上がったからで、それを除くとまだ-0.1%のデフレです。きのうの公式ブログでは、こう書いています。
日本は15年以上デフレに苦しんできました。デフレ下では、物価が下がり続けるとの見通しが、消費の買い控えや投資の先送りを生み、これが所得の低下や雇用減を招いて経済が停滞するという悪循環に陥ります。安倍内閣はこのデフレから脱却し、経済を再生させることを最優先課題としています。
こういう小学生レベルの話をする政治家が官房長官をやっているのは困ったものですが、みなさんでも間違いはわかるでしょう。たとえば300円の牛丼が250円に値下がりすることがわかったとしましょう。みなさんは値下がりする前は牛丼を食べるのを控えるかもしれないが、値下がりしたら食べますね。300円の牛丼より250円のほうがお客さんは増え、お店の売り上げも利益も増えるでしょう(増えるという見通しがなければ値下げしない)。
つまり物価が下がると実質所得が増えるので、一時的には買い控えが起こるが、最終的には消費は増えるのです。次の図は畑農鋭矢さんの「消費低迷のウソ」というコラムに引用されている個人消費の名目GDP(国内総生産)比ですが、むしろバブル崩壊後よりデフレ期の2000年代のほうが増えています。
次に「投資の先送り」って何でしょうか? たとえばある工場で100万円の原料で200万円の製品をつくっているとしましょう。デフレで製品価格を180万円に下げると同時に原料の値段が90万円に下がったら、利益率は同じです。つまりデフレで原料費も下がるので、投資には影響しないのです。
経済学でいうデフレの問題点は、菅さんのいうような「買い控え」ではなく、実質賃金(賃金/物価)や実質金利(金利/物価)が上がると企業の負担になることです。でも日本では1990年代後半から賃下げがずっと続いているので、実質賃金も下がっています。貸し出し金利も下がって1%程度なので、投資のさまたげにはなりません。
問題はデフレではなく、会社がもうからないので成長率が上がらない不況なのです。それは中国などとの競争で安い製品が輸入される一方、日本の経営者が無能で、労働者がもうかる仕事に動きにくいなど、いろいろな理由がありますが、いずれにしてもデフレは不況の結果であって原因ではありません。
大事なことは、労働者や資本が自由に動けるようにして不況を脱却する規制改革です。それがアベノミクスの「第3の矢」ですが、今のところ何も中身がありません。菅さんは安倍内閣の要といわれているので、「デフレ脱却」なんてつまらない話ではなく、こういう実体経済の改革に取り組んでほしいものです。