「乳牛ファンド」と投資の本質

森本 紀行

乳牛の理論価格は、牛が生きている期間中に生み出す牛乳の売却総代金から飼料等の諸費用を差し引いたネットキャッシュフローの現在価値である。


乳牛の理論価格を算定するためには、仮定をおかなくてはならない。基本的仮定は、乳牛の余命と牛乳の量である。これについては、おそらくは、酪農産業の長年の歴史の中で、妥当な推計値を算出するに足る統計が整備されているはずである。もしも整備されていないならば、酪農産業の発展と乳牛取引の効率化のために整備すべきである。次は、牛乳の販売価格だが、こちらは市況があるだろうから、読みにくいものとなる。そして、同じくらい分からないものが、飼料価格である。

理論価格は、仮定の上のものであって、実際の取引価格とは異なる。しかし、取引が成り立つためには、価格の基準が必要である。仮定の不確実性が大きければ大きいほど、理論価格の妥当性は不確かになり、取引価格の妥当性検証が難しくなり、取引が難しくなる。

では、どうすれば、仮定の不確実性が低下するのか。鍵は、コストの価格への転嫁力の強さである。飼料代の上昇(これが、おそらくは、今の畜産農家の最大の悩みではないか)を、牛乳の販売価格に転嫁できれば、ネットキャッシュフローは安定するので、理論価格も安定する。コストを転嫁できなければ、ネットキャッシュフローが減少するので、理論価格は低下してしまう。

コストを価格に転嫁できるかどうかの重要な鍵は、牛乳のブランド力である。例えば、「北海道は十勝のなんとか農園の牛乳」というブランドが全国的に確立しているのであれば、価格を上げても販売量は落ちないかもしれない。

もしも、私が「乳牛ファンド」を作って乳牛投資をするとしたら、自らの投資の収益性と安全性の改善のために、最大限の努力をする。酪農経営は、もちろんプロの農家に任せるわけだが、任せっぱなしには決してしない。牛乳のブランド価値を高めるような努力を委託先の農家と共同で行う。そのような努力の対価としてのみ、ファンド運用の管理報酬があるのは当然ではないか。これが、投資運用業の本質である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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