「成長戦略」で成長できるの?

池田 信夫
成長戦略のまやかし (PHP新書)

アベノミクスの「第3の矢」は成長戦略ですが、安倍首相がそれを発表した6月5日に、日経平均株価は500円以上も暴落しました。「第1の矢」は長期金利が上がっただけで、「第2の矢」はただのバラマキ公共事業なので、安倍さんも「第3の矢が本命だ」と言っていたのに、目新しい話は薬のネット販売ぐらい(すでに最高裁判決が出ている)なので、市場はがっかりしたのです。

そもそも小幡さんもいうように、政府が「このビジネスは成長する」というような産業には、企業はとっくに投資しています。「ターゲティング政策」と呼ばれる、特定の産業に補助金を投入する政策は、今まですべて失敗だった、とマイケル・ポーターも指摘しています。

戦後の日本をリードした自動車・家電・精密機械にはほとんど補助金は出ず、多額の補助金が投入された航空宇宙・化学・ソフトウェアは世界の「負け組」になってしまった。その最後の失敗が80年代の「第5世代コンピュータ」や「シグマ計画」で、これで1000億円近くドブに捨てて以来、通産省は「大型プロジェクト」と呼ばれるターゲティング政策をやめました。

ところがもともとエネルギー政策以外には許認可権のほとんどない通産省では、こういう事業をやらないと予算が減らされるので、2000年代になって「新ターゲティングポリシー」と称して補助金事業が出てきました。その代表が「日の丸検索エンジン」と呼ばれた情報大航海プロジェクトでした。

そもそもこのプロジェクトの始まった2005年には、グーグル以外の検索エンジンはすべて撤退し、グーグルは世界に100万台のサーバを持つインフラ産業になっていました。そこまで大規模な事業を国ができるわけもないし、民間ではとてもリスクは負えない…というわけで、150億円もかけたのに挫折し、省内では「大後悔プロジェクト」と呼ばれているそうです。

竹中平蔵さんも、「今までいろんな政権で7つの成長戦略が立てられたが、成長率はまったく上がらなかった。私は成長戦略なんか立てたことがない」といい、「大事なのは政府が民間にあれこれ指図することではなく、民間の自由にさせる規制改革だ」と言っています。薬のネット販売ぐらいにこれほど大騒ぎになる過剰規制を変える必要があります。

だから政府が成長を促進できることは一つもないが、政府がじゃまをやめることはいくらでもできます。つぶれそうな会社を救済する産業革新機構などの政府系ファンドや、社内失業に補助金を出す雇用調整助成金をやめるだけでも、民間活力は高まるでしょう。

こういう成長戦略=補助金は既得権になってだらだら続いて、「なんとか機構」と称して天下り先になっているものが多いので、安倍さんが「第3の矢」を放つなら、こういう天下り官僚を倒す矢を期待したいものです。