イラン核政策に変化期待できるか --- 長谷川 良

アゴラ

国際原子力機関(IAEA)は9月9日から定例理事会(理事国35カ国)を、16日から第57回年次総会(今年2月現在、加盟国159カ国)をそれぞれ1週間の日程でウィーンの本部で開催する。理事会での最大の焦点はイランの核問題だ。


イランの核問題がIAEAの議題となって10年目を迎えているが、依然、解決の見通しはない。イラン側は自国の核計画が「核エネルギーの平和利用を目指すもの」と主張。それに対し、欧米理事国は「テヘランは核の軍事利用を模索している」という疑いをもち、同国の核計画の全容開示を要求してきた。理事会では米国がイランを批判、テヘラン側はそれに反論、「米国はIAEAを政治化している」と非難する、といったやり取りが理事会でこれまで延々と続けられてきた。

ところが、欧米理事国の間で、イランは強硬な核政策から決別し、対話政策に乗り出すのではないか、といった淡い期待の声が聞かれ出したのだ。穏健派のハサン・ロウハニ師(64)が8月4日、新大統領に就任して以来、イランはマフムード・アフマディネジャド前大統領時代の強硬路線から欧米対話路線に変更するのではないか、という期待だ。ロウハニ大統領にとって、国際社会の対イラン制裁の緩和、それに伴う国民経済の回復が最大の狙いである点は間違いない。

それでは新大統領の就任後の言動を拾ってみよう。同国と欧米6カ国との協議(6か国協議)担当は強硬派のジャリリ最高安全保障委員会事務局長だったが、その責任を外務省に移し、ザリフ外相が担当するようになった。原子力担当副大統領には前外相のサレヒ氏が就任。IAEA理事会でイランの強硬政策を代弁してきたソルタニエ大使は先月末離任したばかりだ。人事面を見る限りでは、大統領の欧米諸国との対話路線は着実に手が打たれている。

新大統領はまた、ユダヤ暦の新年祭(ローシュ・ハッシャーナー)を祝うメッセージを発信するなど、その対話政策はイスラエルを網羅する勢いだ。「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発したアフマディネジャド前大統領の発言とは180度異なる。

発言は別として、ロウハニ大統領はこれまでの核計画を修正、ないしは全容開示する用意があるだろうか。大統領は先月6日、6か国協議の再開について「核問題を解決する政治的意思はある」と語っている。同時に、「核の平和利用は主権国家の権利だ」として核計画を放棄する考えはないことを強調している。

欧米理事国にとって、濃度5%のウラン濃縮活動は容認する考えだが、核兵器製造に繋がる濃度20%のウラン濃縮関連活動の停止を要求してきた。ロウハニ大統領がそれに応じるかどうかは不明だ。

IAEAの天野之弥事務局長が先月28日理事国に提出した最新の「イラン核報告書」によると、イランは中部ナタンツのウラン濃縮関連施設に高性能遠心分離機を増設した。今年5月689基だった遠心分離機の総数はこれで1008基となった。また、米科学国際安全保障研究所(ISIS)は先月、衛星写真を通じて、イランが首都郊外のパルチン軍事施設周辺のアスファルト舗装が5月末に完了したと報告している。欧米側はイランが同施設で核兵器用の高性能爆薬実験を行ったと見ている。IAEAは過去、イラン側に同施設の調査を要求してきたが、、テヘラン側は「軍事施設」という理由から拒否してきた経緯がある。イランの核問題では核兵器用のプルトニウム生産が可能なアラクの重水炉建設問題など、未解決問題は山積している。

果たして、ロウハニ大統領はこれらの問題に対して6か国協議、IAEA理事会でどのような対応を示すか。新大統領の対話路線が単なる政治的ジャスチャーに過ぎないのか、それとも抜本的な改革を目指す考えがあるのか、9月の定例理事会はその答えを知るうえで最初の機会となる。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月8日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。