風邪をやり過ごす安価で簡単な方法 --- 山中 淑雄

アゴラ

「くしゃみ3回、○○3錠」という名コピーが刷り込まれているせいか、風邪を引いたと思ったら、○○には限らず市販の総合感冒薬をのむことにしているのだが、これが実際に効いているのかどうかはなはだ疑わしい。というのは、ほとんどの場合熱はある程度抑えられるが咳や鼻水が止まらず、結局10日ほど飲み続けてようやく回復に向かうという状況を考えると、1日に9錠、10日で90錠服用しても2週間近くは風邪の症状に苦しめられるので、何もしなくても同じ結果であったかも知れないのだ。


2012年1月28日付日本経済新聞のNIKKEI PLUS 1の記事によると、日本の約8割の家庭が常備しているといわれる総合感冒薬(風邪薬)の売り上げは、2005年の1139億円を境に6年連続の前年割れで、2011年には約970億円と1000億円を下回った。特に新型インフルエンザが流行した2009年には75億円の減少と大きく落ち込んだが、これは予防の意識が広がったうえ、頭痛や発熱など初期症状が表れるとすぐ病院に駆け込む人が増えたことが影響したとみられている、という。

私はもう10年くらい前から風邪では医者に行かないし、インフルエンザの予防注射も受けないで、毎年必ず1回か2回はかかってしまう風邪をもっぱら上記の総合感冒薬をのむことで紛らしている格好だ。ところが最近面白い風邪対策法を知り、たまたまひき始めた夏風邪の対策に実施して見たところ大事にならずにやり過ごすことができたので紹介したい。

今年の夏に、30代の半ばまで勤めたT社の先輩で部署は違ったが同じ分野の技術屋として何かとご指導を頂いたMさんに、40年ぶりに連絡がつきメールのお返事を頂いた。高齢者相手にテニスをやっていますとあったが、ご自身がもう後期高齢者になっているはずなのに、と思わず笑ってしまったが、元気で何よりです、と返信をしたためた。Mさんのメールに記載のURL(http://www.f6.dion.ne.jp/~iccinc)を覗いてみたら、ブログのような業績記録のような内容なのだが、創造力テストとして「簡単で有効な、風邪の早期治癒法を考えよう」という設問があった。

ヒントがいくつかある。①風邪感染経路は低温、乾燥の鼻腔からで、経口ではない。②風邪ウイルスの培養は20年近く失敗を続けていたが、培養温度を体温の38℃から33℃に下げることで成功(1963年)。現在、ワクチン培養は34℃前後で行う。したがって鼻腔粘膜の温度を35度以上に保てば感染阻止は可能。③鼻腔、喉頭の効果的な局所加温ができれば短期間でウイルス殲滅が可能。④ウイルスは条件が良ければ数時間で100~1000倍のペースで増殖をするので早期、短期決戦がポイント。⑤ウイルスや細菌類は一定数に達するまでは行動を起こさない。

ということであれば、どうやれば鼻腔と喉頭部の温度を長時間(10~20時間)加温できるかを考えればよいことになる。正解は、風邪かと思ったら直ちにマスク(安物のガーゼのマスクの方が呼吸が楽)を着用し、さらに頸の前後に使い捨てカイロを1~3個セットし喉を加温し鼻腔を35度以上に保つというすこぶるシンプルな方法である。ウイルスは短時間には除去できないので、1~2日は就寝、仕事中にも着用すれば手遅れの風邪でも効果があり、勤務中でも実行可能、というのがよい。

この頸部カイロ加温法は、もともと米原万里がウオッカ温湿布のロシア式風邪治療法を参考にして提案した方法らしい。ウオッカは一般向きではないしにおいも問題だが、安く手に入る使い捨てカイロをマスクと併用するこの方法は誰でも手軽に試みることができる。ことに薬の使用を心配する妊婦にも適した方法である。

風邪は鼻腔、喉頭部主体の疾患であるからこの部分の集中加温のみで充分なのに、それを身体防衛機能に任せると全身発熱、発汗にならざるを得ず、脳機能障害の危険のほかに全身昇温にエネルギーを浪費し、体力回復に長時間を要するという悪循環となる。“風邪を引いたようだから明日病院へ行こう”ではウイルスの増殖に時間的な余裕を与えるだけで、医者の診断を仰ぐためにわざわざ全身症状にするという愚行である、とMさんはいう。

Mさんがこの方法を何人かの専門家に話して意見を聞いたところ、次のような反応があった。①イギリスの風邪研究所所長:この「風邪対策」は簡単すぎて金儲けにならないので医薬品業界は冷淡であろう。②香港の中文大学中医中薬研:SARS治療の漢方薬を研究中で、この「風邪対策」との組合せに関心がある。③NHK科学番組解説員:友人にも紹介した。④厚労省役人:個人的に実施しており、最近は随分簡単に治せるようになった。

NHKでは「ためしてガッテン」のような番組があるが、取り上げることはまずないだろう。これを実践すればいいと信じて医者へ行かなかったが病状が悪化してしまった、というようなクレームを恐れるからだ。私もそういう意味であわてて書いておこうか。
皆さん、この方法を実行するには自己責任でお願いしますよ。

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上の一文は当初私の覚書のような、従って読者も家族、友人、知人に限られるブログに載せるために書いたものだが、アゴラに投稿することにしたのは、より多くの人にこの方法を知ってもらいたいと願ってのほかに、上記のイギリスの風邪研究所所長のきわめて正直なコメントにあるように、この方法がまさに金儲けの対象にならないために大々的に広まらないという問題を考えてみたいからだ。

この風邪の早期対策で風邪の患者が減れば、上に書いた総合感冒薬市場は激減し、風邪患者の多い内科医はあがったりになる。NHKで取り上げたとしても、医者のコメントは貰いにくいだろう。厚労省のお役人はこんな方法はいわれなくても知っていたかもしれないが、健康保険の患者負担額をいかに上げようかということぐらいしか頭にないのであろう。

医療の世界で似たような例がほかにも二つすぐに思い浮かぶ。一つは、(私も現役時代に仕事で一度お目にかかってお話を伺ったことのある)形成外科医の夏井睦氏が広めた湿潤療法である。これは、擦過傷や熱傷、褥瘡などの皮膚潰瘍に対し、従来の(特殊な)ガーゼと消毒薬での治療を否定し、消毒をしない、乾かさない、水道水でよく洗う、を三原則として行う治療法で、これでは金儲けの対象になりにくいのである。

もう一つは「がんもどき」理論で有名な近藤誠氏のがんに対する考え方である。手術、抗がん剤で治るという医師らを批判し、治らないがんは放置して静かに死を迎えるべきだというのが氏の主張であるが、これは上の二つと異なり人生観、死生観にもかかわることだが、いずれにせよ金儲けにならないことをいっても黙殺されるだけなのだ。

平成23 年度のわが国の医療費は前年度に比べて約1.1兆円増加し(9年連続の増加)、過去最高の 37.8兆円となったという。ここで紹介した「風邪対策」が普及しても雀の涙ほどの節約にしかならないであろうが、何よりも風邪を楽にやり過ごすことができるというだけでも、実践する価値があると思う。

山中淑雄
元外資系企業社長