知られざる「加藤談話」

池田 信夫

朝日新聞が張り切って、社説でも昨年、李明博大統領が来日したとき、野田首相が元慰安婦に謝罪して金を払う「政治決着」をしようとしたことを賞賛し、「元慰安婦の存命中にこの問題に区切りをつけ、日韓関係を修復することが急務」だとして安倍首相に同様の政治決着を迫っている。


バカじゃないの、というしかない。この問題が朝日の誤報から始まったことにほおかむりして、韓国の「反発」を抑えるために事実に反する「謝罪」をせよなどという話に、この問題を最初から追及してきた安倍氏が乗ると思っているのか。まず朝日が誤報を謝罪することが解決の出発点だ。

ところが、いまだに子安宣邦氏のような専門家も「慰安婦問題の問題化の原因は、安倍が軍的関与としての慰安婦問題を否認する歴史認識にある」と誤解していることに驚いた。軍の関与は争点ではない。これは1992年の加藤官房長官談話で、次のように日本政府が認めているからだ。

慰安所の設置、慰安婦の募集に当たる者の取締り、慰安施設の築造・増強、慰安所の経営・監督、慰安所・慰安婦の衛生管理、慰安所関係者への身分証明書等の発給等につき、政府の関与があったことが認められたということである。[…]政府としては、国籍、出身地の如何を問わず、いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くし難い辛苦をなめられた全ての方々に対し、改めて衷心よりお詫びと反省の気持ちを申し上げたい。

ところが韓国政府がこれに納得せず「強制性を認めろ」と要求してきたため、再調査が行なわれ、その結果、強制の証拠は出てこなかったのに翌年の河野談話で「本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあった」という曖昧な表現で強制性を認めたことが今日まで尾を引いているのだ。

これを混同して「日本政府は関与を否定している」などというのは初歩的な誤解であり、橋下徹氏のように「戦地で売春させること自体が非人道的だから、世界各国が謝罪すべきだ」という話もおかしい。少なくとも日本政府は、上のように関与については謝罪し、アジア女性基金に間接的に資金援助もしているからだ。

問題はこういう日本政府の妥協案も拒否し、ひたすら何の証拠もない「強制連行」を認めろという韓国政府にある。彼らはそれが嘘であることを知っているが、嘘も100回つけば本当になる。安倍首相がこの問題に沈黙を続けているかぎり、韓国の嘘は朝日新聞やNYタイムズなどによって世界に増殖するだろう。