私は昔から朝日新聞の読者だし、一度は内定ももらったから、辞退しなければ朝日新聞の記者になっていた。学生のころまでは、入社試験を受けたぐらいだから朝日新聞を尊敬していた。面接のときの印象も、NHKが官僚的なのに比べて朝日はリベラルな感じだった。紙面は、当時の社会党の主張にそっていた。朝日も「万年野党」なので、無責任なきれいごとを言っていればよかったのだ。
しかし90年代以降、社会主義が崩壊して冷戦が終わると「革新勢力」は消滅し、小沢一郎氏のような「新自由主義」が新鮮にみえるようになった。このへんから朝日のポジショニングは微妙になり、一時は小沢氏や小泉氏の「右寄り」の改革を支持するようにみえたが、2009年の自民党政権の崩壊後は民主党寄りのスタンスに先祖返りした。
特に3・11のあと「原発ゼロ」を宣言してから、大野博人論説主幹のもと、極左化の傾向が目立つ。安倍政権になってからは、雇用改革を解雇特区と呼んで厚労省べったりのキャンペーンを張り、自社の誤報がもとで起こった慰安婦騒動を蒸し返して安倍政権に「政治決着」を迫るなど、古典的左翼の論調が復活して、中日新聞や北海道新聞などの地方紙に近づいている。
地方紙が極左的な論調をとるのは自然である。彼らは政府と接点が少ないので、政府の悪口を書いたほうが読者は増えるからだ。しかし全国紙は政治との距離が近く、政権との「貸し借り」が多いので、極左的なスタンスは取りにくい。それがここに来て暴走し始めたのは、朝日の経営が行き詰まっていることと関係があるのではないか。
私は大学で「ジャーナリズム」という科目を非常勤で教えているが、いつも最初の時間に読んでいるメディアを質問することにしている。昔から新聞を読んでいる学生は少なかったが、ここ3年はゼロだ。永江一石氏も紹介しているように、新聞の購読率は20代の男性で13%に激減し、逆に70代は78%と少し増えている。
テレビでも私がNHKに勤務していたころから高齢化の傾向はあったが、新聞ではそれが顕著に進んでいる。おそらく購読者のメディアンは60歳ぐらいだろう。これは選挙の有権者と一致する。政治と同じく、新聞もメディアンの読者に合わせることが合理的だから、団塊の世代以上の「紙の新聞」を読む世代に特化した紙面づくりをしていると考えると、この地方紙化は説明できる。
老人は幼児に返るという。私の世代ぐらいまでは革新勢力が健在で、日教組の先生は子供に空想的平和主義を植えつけた。もう社会に影響力をもたなくなった団塊の世代は、子供のころの左翼イデオロギーに回帰して反原発デモに参加したりしているから、彼らにターゲットを合わせ、昔の社会党のような話を蒸し返すのは、営業方針としては悪くない。
ただ「団塊政党」だった民主党が無残に失敗した状況をみると、朝日の地方紙路線にも展望はない。特に日本経済のボトルネックである雇用問題で厚労省=労組寄りのスタンスを取ったことは、改革を阻止して安倍政権の足を引っ張る目的かもしれないが、時代錯誤の感はまぬがれない。永遠に成熟できなかった団塊の世代とともに、朝日もゆっくりと終焉を迎えるのだろう。