NHKによれば、厚労省が「雇用特区」に抵抗しているため、労働契約法の「5年を超える契約社員は禁止」という規制を10年に延長する方針だという。特区ではなく全国で規制改革を行なうのはいい方向だが、もともと雇用期間の規制なんか必要ない。派遣労働者についても、26業種の規制を撤廃する代わりに3年を超える有期契約を禁止する労働基準法を適用する方向だが、この規制も撤廃すべきだ。
厚労省は、こういう規制は「非正規労働者を保護するためだ」というが、労働契約法の改正には大学の非常勤講師が反対し、労働者派遣法についても派遣ユニオンが「3年規制」に反対している。厚労省が「守ってやる」という当事者が反対しているのに、役所は無理やり彼らを「保護」するのだろうか。
こういう紛争が繰り返し起こるのは、厚労省の目的が非正社員ではなく正社員の保護にあるからだ。事実、連合は派遣社員の26業種規制の撤廃に反対する一方、3年規制には賛成している。彼らの既得権を脅かす派遣労働者を減らしたいからだ。労基法の規定も「3年を超えて雇用する場合には正社員にしろ」という意図で決まったものだが、結果的にはほとんどの契約社員が3年で雇い止めされる。
2000年代に入って非正社員が増えている原因を、厚労省は「規制緩和が原因だ」と錯覚して、規制を強化すれば減ると思い込んでいるが、問題は逆だ。正社員の過剰保護のために雇用コストが高いことが、非正社員の増える原因なのだ。こういう問題を生み出しているのは、八代尚宏氏も指摘するように、正社員だけが正しい雇用形態だという厚労省の家父長主義である。
正社員の「メンバーシップ」を守るために、非正社員はそのメンバーシップを破壊しない「ジョブ型正社員」にしろという天下り官僚の主張などは、そういう錯覚の典型だ。メンバーシップ=長期的関係に依存する日本型資本主義がグローバル化に適応できないので、正社員を特別扱いする雇用規制を撤廃すべきだ。契約期間を6年とするのも20年とするのも、民法に定める契約自由の原則である。
新興国との競争が激化する中で、このような過剰規制によって労働生産性が落ちていることが長期停滞や「デフレ」の原因だから、日銀が金を配っても直らない。安倍政権が本気で成長率を上げる気なら、派遣や契約社員の雇用期間についての規制をすべて撤廃すべきだ。