高位聖職者の「生活ぶり調査」 --- 長谷川 良

アゴラ

独週刊誌シュピーゲル電子版が面白い企画を行った。独のローマ・カトリック教会27教区の責任者に質問を送り、その結果を発表している。質問内容は、①司教(枢機卿)の住居状況、②車の種類、といったきわめて世俗的な質問だ。独週刊誌の企画の狙いは明らかだ。リムブルク司教区のフランツ・ペーター・テバルツ・ファン・エルスト司教の巨額な教会関連施設建設費(推定約3100万ユーロ)が大きな社会問題化し、国民の間にも「他の高位聖職者(枢機卿、大司教、司教)の生活ぶりはどうか」といった素朴な関心が高まっている。そこで少々、覗き趣味的な企画となったわけだ。


週刊誌らしい企画だが、あまりにも世俗的な質問であり、高位聖職者も答えるのに苦労したかもしれない。質問には、聖職者不足をどのように克服するか、聖職者の独身制を維持すべきか、といった教会が現在直面している深刻な問題はまったくないからだ。

独週刊誌は「独教会の27教区責任者(2教区は空席)がほとんど返答してくれた」と自負し、その結果を20日の電子版で紹介している。例えば、アヘン司教区のハインリッヒ・ムシングホフ司教(73)は203平方メートルの大きな住居で、3部屋、風呂場、トイレ、台所があり、使用している車はBMWだ。エッセン司教区のフランツ・ジョセフ・オバーベック司教(49)は220平方メートル、車はVWだ。ケルン大司教区のナイサー枢機卿の場合、246平方メートル、車はBMWだ。枢機卿でもミュンヘン・フライシング大司教区のラインハルド・マルクス枢機卿(60)は3部屋だが、大きさは90平方メートルと小さい。

質素な生活をしている司教としては、レーゲンスブルグ司教区のルドルフ・フォーダーホルツアー司教(55)は専用車を持っていない。ロッテンブルク・シュトゥットガルト司教区のゲブハルド・フュルスト司教(65)は司教邸に住んでいる、といった具合だ。面白いのは、フルダ司教区のハインツ・アルガーミセッン司教(70)は174平方メートルの住居だが、「近い将来、110平方メートルの小さな住居に移りたい」と述べている。同司教は174平方メートルの住居が広すぎて「少々、贅沢かな」と正直に告白しているわけだ。
 
27教区の高位聖職者がシュピーゲル誌の質問に答えている姿を思い浮かびてみた。「答えないと、憶測されるかもしれない」と考え、仕方なしに答えた司教もいただろう。「あれもこれも、あの奴が馬鹿なことをしたからだ」とテバルツ・ファン・エルストエルスト司教に怒りをぶっつけた聖職者もいたかもしれない。「質素な生活、「車は中古車を」と叫ぶフランシスコ法王の姿を想起したかもしれない。「贅沢と華美な生活時代は終わった」と時代の変化を密かに嘆き、「昔は良かった」と呟いた高齢聖職者がいたとしても驚かない。

独ローマ・カトリック教会は国家機関ではないから、高位聖職者がどのような生活ぶりをしていてもそれは教会の問題だ。部外者が、ああだ、こうだというべきではないかもしれないが、信者から教会税を受け取っている以上、詳細な会計報告は不可欠だ。使い方に問題が生じれば、信者から追及されるのは当たり前だ。神を語り、イエスの苦難の道を紹介する教会聖職者が奢侈な生活に溺れているようでは、信者たちの心に届く説教や牧会は期待できないだろう。ただし、住居の大きさと所有する車種によって聖職者の良し悪しは判断できない。

【テバルツ・ファン・エルスト司教問題』
ローマ法王フランシスコは21日正午(現地時間)、リムブルクのフランツ・ペーター・テバルツ・ファン・エルスト司教の私的謁見を受けた。両者の会談は約20分間と短く、その内容は明らかにされていない。リムブルク司教広報担当者は「エルスト司教はローマ法王を謁見し、鼓舞されたと述べている」という。一方、バチカン関係者によると、「フランシスコ法王はエルスト司教の処遇問題では早急な決断を下さない考えだ。先月設立されたリムブルク司教区建設問題特別委員会の調査報告を待って決めるだろう」という。ドイツ・メディアによれば、同司教は辞任に追い込まれるだろうという。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。