今日の毎日新聞ネット記事や読売新聞ネット記事など各紙報道によると、厚生労働省は、一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売の新ルールとして、医師の処方箋が必要な医療用医薬品から市販薬への切り替え後原則3年以内に解禁する新たなルールを発表したとのこと。
<記事抜粋>
・副作用リスク審査中の市販薬23品目について「店頭販売開始から4年間」となっている現在の副作用審査期間を「3年間」に短縮したうえでネット販売を解禁。
・劇薬に指定されている5品目はネット販売を禁止。
・医薬品ネット販売を巡っては、最高裁が1月に販売を一律に認めない厚労省令を違法と認定。
・市販薬ネット販売解禁を成長戦略の目玉と位置づける安倍政権の意向を踏まえ、厚労省は市販薬約1万1400品目のうち99%以上のネット流通を認める一方、残る23品目と劇薬5品目の扱いを検討してきた。
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医薬品ネット販売規制緩和が成長戦略の目玉であることへの評価はさておき、少なくともそうであれば、「3年間」は成長戦略の目玉が開眼しないと思われても仕方ない。規制緩和も含めて制度変更というのは、一般的に、既得権益の縮小と新規権益の拡大が共存する。既得権益者は供給側だけではない。需要側にも既得権益はある。今回の場合、需要側の既得権益が向こう「3年間」、著しく棄損してしまう。
市販薬のネット販売に関しては、「最高裁が1月に販売を一律に認めない厚労省令を違法と認定」した判決を出して以降、事実上の全面解禁状態になっている。今回の厚労省案の通りに薬事法改正案が成立すると、「市販薬23品目」は「3年間」はネット販売禁止となり、今行われている商売が少なくとも「3年間」はできなくなる。
これは、規制緩和など制度変更プロセスにおける落とし所を見誤ったとしか思えない。経過措置のような形で一定期間内は「一律に認めない」というのは、その市場に既得権益者が存在しない場合にはあり得ることだが、需給両側に既得権益者が存在している場合には、単なる営業妨害以外の何物でもない。
医薬品安全はとても重要な分野であるから、全てのネット販売業者に対して全ての医薬品ネット販売を何らのルールもなく完全に自由化することは、決して得策ではない。副作用その他何らかの事由による“事故・事件”が起こった際に、それらがネット販売に起因するか否かにかかわらず、即座に規制強化の空気を醸成してしまうことが大いに考えられるからだ。
『全員全面解禁』は、ネット販売業者にとってすら逆効果になる可能性が高いのだ。だからこそ、一定のルール上に乗ることのできるような『信頼できる医薬品販売業者』だけが参入できる市場を創ることが、最終的には現存する需給両側の既得権益者、即ちネット販売を利用している消費者とその販売者との関係においても、軟着陸となるはずだ。これに関しては、拙稿を参照されたい。
厚労省が提出する薬事法改正案を修正するのは、国会の役割である。大与党の国会情勢なので、政府提出法案の議員修正は至難の業であろうが、与党内での議論の更なる高まりを期待するしかない。
編集部より:この記事は石川和男氏のブログ「霞が関政策総研ブログ by 石川和男」2013年11月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった石川氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は霞が関政策総研ブログ by 石川和男をご覧ください。