有給が取りづらいという空気の研究 --- 城 繁幸

アゴラ

フォローしてくれる論考も出てきたのでちょっとだけ補足。

有給がなかなか取れない理由に「なんとなくとりづらい雰囲気がある」と挙げる人が少なくないが、筆者はその理由は2点あると考えている。


一つは、単純に業務の切り分けがなされておらず、どこまでやったら終わりかが誰にもはっきりとはわかっていないから。
村人みんなで集まって広場の草刈りをしている様子を想像してみて欲しい。
「俺はもう十分刈ったから今日はもう帰るわ」と最初に言い出せる人は少ないだろう。
あらかた片付いた頃、それも年長者がぼつぼつ帰り始めたくらいに「……じゃあ、そろそろ」と周囲とアイコンタクトを交わしつつそっと帰宅するというのが正しい日本人の仕事の終わらせ方である。

そして二つ目は、そもそも有給休暇の取得を会社が制限することが法で認められていることだ。「会社には業務を理由にそれを拒否する権限がある」とされている状況では従業員側が委縮するのも無理はない。

なぜこれが認められるかと言えば、終身雇用を守るために、ぎりぎりの人員しか配置できないから。終身雇用を守るために青天井で残業させられるのと同じロジックだ。

これら2点が、有給が取得しづらい空気を醸成している大元だろう。

さて「有給取得率が低すぎる」という問題は政府も認識しているようで、定期的に対策が議論されているのだが、すべて上記2点はきれいに外した議論だ。企業側に一定の有給取得を義務付けさせたり、有給の代わりに祝日を増やしたり……

もちろん、そういうアプローチもありえないではないだろうが、ちょっと想像してみて欲しい。
政府が決めた祝日に横一律で休んだり、“業務命令”で無理やり休暇を取得させられる社会は、諸外国とは根本的に異質な社会に思えてならない。そもそも、もっと生活に余裕が欲しいと思っている人達は、そういう社会を望んでいるのだろうか。

というわけで、冒頭の2点に真正面から取り組みつつ、もう少し大きな視点から眺めてみると、我々の前には2つの選択肢があるのがわかるだろう。

1. 年20日くらい自由に取得できる休暇があって、残業も常識的な範囲内に収まっているけれども、会社の都合によって解雇もありえる社会。

2. 有給なんてせいぜい4割程度、それも会社が認めた時にのみ取得できて、残業は繁忙期には青天井でこなさないといけない。全国転勤もあり、たまに過労死する人もいる。でもとりあえず会社が傾くまでは雇用は守ってもらえる可能性が高い社会。※

日本は成熟した先進国であり、もう「欧米に追い付け追い越せ」という時代ではないのだから、そろそろ1番に移行した方が国民は幸福なんじゃなかろうかというのが筆者のスタンスである。

※もちろん守ってもらえるのは大手くらいで、もともと終身雇用なんて怪しい
 中小零細企業の従業員が2番を選択するメリットは何にもない。
 彼らが引き受けるのはそのデメリットのみである。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年10月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。