不快感が残った。一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売をめぐる政府とネット業者の論戦と、その結末だ。「患者のため」は上辺だけ。本質は既得権擁護と金儲けの激突で、相手を非難することで自らの過ちまで正当化する。その象徴が「対面販売」をめぐる足の引っ張り合い。餓鬼の喧嘩より始末が悪い。
■格好悪い
当初、厚生労働省は防戦一方だった。省令で第1類と第2類のネット販売を禁止したつもりが、最高裁判決で省令そのものが違法とされ、無法(事実上の全面解禁)状態になった上、制度上の全面解禁を求めるネット業界などの激しい攻勢にさらされた。
最後は官邸に泣き付いた成果があったのか、市販薬約1万1千品目のうち99.8%の品目についてはネット販売を解禁し、例外として、(1)医療用医薬品(処方薬)から市販薬に転用されたものは安全性評価のため市販後、原則3年間、ネット販売を禁止、(2)劇薬5品目はネット販売禁止━という新ルールで押し切った。負けそうになって親に助けを求めた子供のようで、すごく格好が悪い。また全面解禁を「規制緩和の一丁目一番地」と言っていた安倍首相の豹変ぶりも格好悪い。
一方、“全面解禁の旗手”となった楽天の三木谷浩史会長は、政府が条件付き解禁を公表した11月6日、記者会見し、「時代に逆行する。規制改革は最後の重要なところで役人に堰き止められる」と怒りを露わにし、産業競争力会議の議員の辞任し、訴訟で国と争うと息巻いた。
12日、今度は処方薬のネット販売解禁を求める訴訟を起こした。以前からネット業界や流通業界で「市販薬は外堀、本丸は処方薬」と言われており、本丸攻めが始まったようだが、こんな調子で国民の広い支持が得られるのだろうか。
違和感があるのは、産業競争力会議議員という公職を簡単に投げ出そうという三木谷会長の姿勢だ。公益のため(国民のため)に、議員を引き受けたのではなかったのか。自分の主張が通らないから、公職を放り投げる。患者や家族への配慮が足りない。ネット業界の利益代表にすぎないことを自ら暴露した格好だ。「国を相手に裁判を起こす以上、(同会議の)議員を辞するのは当然」と言うが、詭弁に聞こえ、これも格好悪い。
■対面販売の現実
厚労省とネット業者の論戦で大きな焦点となったのが、「対面販売」の在り方だ。厚労省は対面販売の必要性を「購入者への安全性確保だ」と言い切った。症状、薬歴、顔色など患者の様子などを総合的に判断するには薬剤師の対面販売が基本だと言う。
これに対し、ネット業者は「薬局などでは対面せず販売しているケースが多く、建前にすぎない」と反論した。
10月、近くの薬局やドラッグストア計8店で常備薬とも言える第一種の鎮痛剤、胃腸薬、アレルギー点鼻薬などの購入を試みた。薬剤師が常駐していない5店のうち2店では販売員から「服用した経験がありますか」などと一言二言、聞かれたので、「はい」と答えたら、その場で買えた。また1店では「空き箱」を持参して化粧品や家庭用品の購入客と同じレジの列に並んだら、バイトらしき女性が無言のまま後ろ向きになって本品を選び、何の説明のないまま買えた。薬剤師が不在のため買えなかったり、購入の際、丁寧な説明とともに「お薬手帳」を発行してくれたりした薬店もあった。現実として対面販売が徹底されていないことは確かなようだ。
厚労省の主張は、ネット業者が指摘するように、「最初に規制ありき」の感が否めない。対面販売が建前となってしまい、現実と乖離しているからだ。対面販売を義務付けるなら徹底的な現場指導が不可欠だ。このままでは「既得権を持つ業界の権益擁護」とのそしりを免れられない。
一方、ネット販売はどうか。9月、やはり第一種を5品目購入したが、簡単な説明書が添付されているケースが多く、パッケージの注意書とほとんど内容が変わらない。薬剤師にアクセスできるが、正直、ちょっと面倒だ。普段、常用している市販薬なら心配はなさそうだが…。大量買い・大量服用の防止、飲み合わせの指導などの課題もある。便利な分、販売責任もより大きい。対面販売の現状を指摘し、批判するのは結構だが、自らの責任の重さと対応策を明確にすべきではないのか。
楢原 多計志
共同通信客員論説委員
編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年11月19日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。