(構成・石井孝明 経済ジャーナリスト)
(本文「福島原発事故、混迷を打ち破る技術革新への期待」から続く)
--理事長職は無給で、週の半分は東京に通っていると聞きます。献身的な取り組みですが、なぜ引き受けたのですか。
山名 いろんな思いが重なりました。原子力関係者として福島事故が起こったことは大変なショックでした。大学や学会で調査支援や提言を行いましたが、事故対策にもっと強く関わりたかったのです。11年に原子力委員会の廃止措置を検討する専門部会の座長となるなど、政府からの仕事の依頼に積極的に応じたのです。
さまざまな場で「技術研究の独立機関」をつくるべきと、私は繰り返し主張しました。提案を経産省が受け止め、遅まきながらもこのような組織を作ったことは評価します。理事長職就任の話があった時は、こうした経緯から、天命と考え引き受けました。IRIDの設置は現時点で技術面の革新で行政が取りうる、最も有効な対策でしょう。
--技術情報は「ビジネスの種」になります。出し惜しみなどの懸念はないのでしょうか。
山名 それは懸念するべき点です。現在は情報を集め、提供をお願いしている段階です。日本と世界各国の専門家から、自発的に協力したいという申し出が多く、原子力関係者の結びつきの強さをうれしく思っています。しかし善意ばかりに委ねられません。ルール作りを専門家の意見を集めながら行い、情報を流通しやすくする仕組みをつくります。
--期待する募集技術は何ですか。
山名 提案すべてに期待していますが、特に廃棄物の管理・処理方法が忘れがちですが重要な技術です。廃炉作業は40年以上の長期作業の中で廃棄物が大量に出ます。その量を減らし、安全性を高めることが、長期的にコスト低減に役立ちます。
--エネルギー関係者にIRIDからどのようなメッセージがありますか。
山名 私は技術者、科学者として、原子力はこの国に必要な技術だと考えています。しかし福島原発事故の影響で、その先行きを懸念しています。今の状況は大変厳しいものがあります。
原子力に批判的な方は今、誰もが福島事故と、原子力問題の「後始末の不備」を必ず取り上げます。廃炉、核燃料サイクル、そして核廃棄物の問題です。残念ながら批判の通り、原子力関係者はそれらにこれまで答えを示すことはできませんでした。信頼を回復するためには結果を出さなければいけません。その一つが、福島事故の早期の収束です。
廃炉技術の研究と開発の進歩は原子力の未来につながっています。エネルギー関係者の皆さんには、ぜひ知恵の面から、ご協力をいただきたいと思います。
やまな・はじむ 旧動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)で再処理技術の開発に従事。02年から京都大学原子炉実験所教授に就任。東北大学博士(工学)。