ダーティ爆弾が炸裂した時 --- 長谷川 良

アゴラ

国際原子力機関(IAEA)の報道用広報によると、「IAEAは20日から2日間、モロッコでダーティ爆弾(dirty bomb) が炸裂したという想定で緊急演習を行う。同演習には58か国と10の国際機関が参加。コード名はBab Al Maghribと呼ばれ、モロッコ当局が演習のシナリオを作成した」という。


今回は参加数と国際的規模からみてダーティ爆弾テロへの初の本格的な演習となる。これまで原子力発電所のテロ襲撃を想定してきたが、今回は放射性物質(核廃棄物)を利用したダーティ爆弾がさ炸裂した、というシナリオだ。

ダーティ・ボムが爆発した時、どのように早期対応するか、核汚染対策と周辺住民の避難、国際社会の連携などを模擬演習する。IAEA加盟国は通常、自国の安全対策綱領に基づき行動を起こすが、IAEAが作成した操作マニュエルがそのたたき台となる。

米国内多発テロ事件(2001年9月11日)後、国際テロ・グループの核テロの恐れが現実味を帯びてきたと指摘されてきたが、幸い、その懸念は今日まで現実とはならなかった。欧米テロ専門家たちは「高度の核関連技術と知識が必要な核テロを実施することはテロ・グループにとってもハードルが高すぎる。可能とすれば、ダーティ爆弾が考えられる。その被害は核テロと同様、深刻だ」とみている。
 
IAEA本部で今年7月、核の安全問題に関する国際会議(閣僚級)が開催された。天野之弥事務局長は開会演説の中で「加盟国の努力で核関連施設、物質の管理は前進したが、ダーティ爆弾が破裂したり、核関連施設でサボタージュが生じた場合、その結果は破壊的だ。核テロの脅威はリアルだ。その脅威に対抗するために国際社会は核関連物質の安全管理強化に乗り出さなければならない」と述べている。

原子力エネルギーの平和利用を標榜するIAEAの重要課題は「原発の安全性(Safety)」と共に「核の安全問題(Security)」だ。特に、後者では「核の不法取引に関するデータ」(ITDB)システムが構築されている。2013年6月末現在、ITDBには124カ国が加盟している。

ITDBによれば、2013年6月末現在までに総計2407件の不法な核関連物質に絡んだ不祥事が報告されている。例えば、昨年7月1日から13年6月末までの過去1年間、加盟国から155件の不祥事が報告された。その内訳をみると、14件は不法な核関連物質の保持、売買、40件が核関連物質の喪失、窃盗事件だ。そのうち2件はカテゴリー1から3の放射性物質だ。残りの101件は「犯罪との関連性がなく」、多くは保管状況の問題だった。

ちなみに、1個の核兵器製造のためには、90%以上の高濃度ウラン(HEU)25キロが必要だが、13年6月末までの報告期間、HEUが絡んだ不祥事は報告されていない。参考までに、イランが製造している濃縮20%ウラン(LEU)の場合、「潜在的兵器使用可」(IAEA関係者)と分類されている。プルトニウムの場合、1個の核兵器製造には約8キロが必要だ。
 国の管理する大量の核物質が不法取引される危険性は少ないが、皆無ではない。例えば、北朝鮮が核関連機材や情報以外に、核兵器用プルトニウムや高濃縮ウランを外貨獲得のために他国に売る可能性が考えられるからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。