体制不備のまま進める特定秘密保護法案への危惧 --- 岡本 裕明

アゴラ

今年の1月16日起こったアルジェリア人質事件を契機に国家安全保障会議(日本版NSC)創設へと与党が再び動き出したという記憶が残っている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

この事件によって海外邦人救出の術、外務、防衛、各省庁の縦割りをなくし情報が官邸に迅速に届けられ、状況を分析し行動を起こすために日本版NSCの必要性が前面に押し出されることになりました。これは、第一次安倍内閣の時から提唱されていたものであります。


この日本版NSC創設に新たなるアングルが加わったのが今年の6月に起こったエドワード・スノーデン氏による情報収集の手口の暴露でした。

この話を進める前に本家アメリカのNSCがどういうものなのかを簡単に整理してみましょう。

アメリカ国家安全保障会議(National Security Council)はアメリカの安全保障のトップであり大統領を議長とし、大統領への政策助言、安保立案、各省庁の調整という機能を持ちます。そして、大統領直轄で情報収集のために中央情報局(CIA)が設立されました。スノーデン氏は元CIAと国家安全保障局(NSA)の職員という記述がありますが、NSAはアメリカ国防総省下の諜報機関であります。CIAはスパイなどの人を使った諜報活動を担当するのに対し(Humint)、NSAは情報機器を使った情報収集活動とその分析(Sigint)という面においてそのアプローチを異にしています。

ところで山崎豊子著の「運命の人」の題材となった西山事件の全貌が2006年に国立公文書記録管理局(NARA)で保存されている日米外交記録によって明らかになりました。NARAでも全ての記録が閲覧できるわけではなく、NSCからの指示に従う情報安全保障監督局(ISOO)によって公開・非公開などの分類を行い管理しているようです。

さて、ここで日本版へと戻りましょう。アルジェリア事件を受けてNSC創設に向けて動いていたものがスノーデン事件によって必ずしも注目されていたとはいえない特定秘密保護法に照準が切り替わり、世論をも巻き込んでしまいました。

スノーデン事件を通じて個人情報が勝手に吸い取られていたことへの驚愕と遺憾があり、政府側でも政府要人の盗聴、外交機密の漏洩に対する脅威があったことと思います。一方で他の先進国にはすでに秘密保護法案が存在するものの日本にはないためにアメリカが日本への情報提供を渋る向きがあるようです。つまり特定秘密を扱う公務員や民間人へのチェック体制、期間、指定範囲が曖昧であるとの指摘があったのであります。

ここで、注目して頂きたいのが、本家アメリカでは大統領が頂点で組織体系的にも明確であり、前述したCIA、NSA、NARA、ISOOからなる体制によって管理されていることです。日本の場合は第一次安倍内閣時に一度そのたたき台の会議が設立されたのですが、福田内閣時にその必要性を認めず、解散した経緯があります。そう考えると安倍総理が本件について並々ならぬ熱意を持っていると見受けられますが、安倍総理の後の総理がそれをどう捉えるかで足元はぐらつく可能性は秘めています。

また、CIAが公安、NARAが公文書館と言えたとしても残ったSigintを行うNSAや機密情報を扱うISOOの二組織にあてはまるものがありません。たとえば今日本で議論されている文書の公開期間についてはアメリカではISOOが担当するものの日本ではそのあたりが不明確になっています。

特定秘密保護法案は日本版NSC創設の一部であると言えるでしょう。ただ現在の報道を見る限り秘密保護法案の細部に目が行き過ぎて全体が見えなくなっています。安部首相は最終的に何をしたいのかそこが見えません。

日本版NSC創設を検討する意味は日本が体制・制度的にも先進国に比べてかなり遅れている実態にあります。日本の国際化が今後どんどん進展し、外国企業の日本誘致も進む中、邦人や日本企業の安全を目指し、本家NSCに倣う本気度があるのならそれなりの体制作りを行う必要がありますが、なし崩しは失敗のもとではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。