米FOMCのベージュブック、12月テーパリング観測の後退を促す --- 安田 佐和子

アゴラ

17~18日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策決定の判断材料となるベージュブック。経済全般につき「控えめかつ緩やかなペースで拡大」との表現を維持しました。

ベージュブック概要の全訳をみると、想定より前回とカーボンコピーではありません。↓以下にある、前回内容の全訳との比較をご覧下さい。

報告書のカバーがベージュなので、こう呼ばれます。

(出所 : forexabode.com)

米連邦準備制度理事会(FRB)は12月4日、11月22日までの調査結果に基づいた12地区連銀報告(ベージュブック)を公表した。クリーブランド連銀がまとめた今回の調査では、10月から11月半ばにかけての全般的に経済活動につき、前回通り「控えめかつ緩やか(modest to moderate)」なペースで拡大したと報告した。ニューヨーク、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、セントルイス、ミネアポリス、ダラスの7地区連銀は「緩やか(moderate)」、フィラデルフィア、シカゴ、カンザスシティ、サンフランシスコは「控えめ(modest)」と表現している。ボストンのみ、「拡大し続けた(continued to expanded)」とまとめた。フィラデルフィア、リッチモンド、シカゴ、カンザスシティでは「鈍化した(slowed)」。

前回:米連邦準備制度理事会(FRB)は10月16日、10月7日までの調査結果に基づいた12地区連銀報告(ベージュブック)を公表した。シカゴ連銀がまとめた今回の調査では、9月から10月初めにかけての全般的に経済活動につき、「控えめかつ緩やか(modest to moderate)」なペースで拡大したと報告した。5地区連銀が前回どおりのペースとしたほか、フィラデルフィア、リッチモンド、シカゴ、カンザスシティでは「鈍化した(slowed)」。連邦政府機関の閉鎖や債務上限引き上げ協議により不透明性が強まるなかでも、全般的に見通しには「慎重ななかでの楽観(cautiously optimistic)」を有していた。

▽製造業は自動車やハイテクを中心に強い、消費は増加

製造業は、ほぼ全ての地区連銀で「拡大し続け(continued to expand)」ており、自動車やハイテクで顕著だった。また製造業につき、多くの地区連銀は「楽観的(optimistic)」な短期的見通しを示す。専門ビジネス・サービスの需要は「安定的かつ緩やか(stable to moderate)」で、特にコンピューター・テクノロジーがあてはまる。航空輸送量は、「強まり(strengthening)」の兆候を示した。消費支出は「増加(positive)」した。ホリデー商戦見通しにつき、小売は「期待しながら慎重(hopeful but cautious)」なスタンス。自動車販売は、「緩やかかつ強い(moderate to strong)」動向を示した。旅行・観光は一部の地区で政府機関の閉鎖による影響を受けながら、「増加した(increased)」。

前回:消費支出と旅行・観光は、ほとんどの地区連銀で「拡大(expanded)」していた。設備投資や従業員総数は、多くの地区連銀で「増加した(grew)」。非金融機関サービスの需要は「強まり(rose)」、製造業活動は「穏やかに拡大した(expanded modestly)」。

▽不動産は拡大基調、一部は銀行の貸出基準緩和を報告

住宅向け不動産市場は、12地区連銀にわたって「活発に改善し(actively improved)」、複合住宅の建設活動は「緩やかから強い(moderate to strong)」ペースを確認した。一部の地区連銀は一戸建てが季節要因で「鈍化(slowing)」。非住宅向け不動産は、全ての地区連銀が「安定的あるいは小幅な改善(stable or improved slightly)」を報告している。農業は「全般的に良好(generally favorable)」。鉱業は「まちまち(mixed)」で、天然ガスは拡大した。銀行は概して「安定的(stable)」で、一部の貸出には需要に「改善(improvement)」がみられた。複数の地区連銀は、「貸出基準の緩和(easing lending standard)」を報告した。

前回:住宅建設活動は、「緩やかな拡大を続けた(continued to increase moderately)」。反対に、非住宅の建設活動は「拡大ペースが鈍化した(expanded at a slower pace)」。住宅および非住宅不動産は地区連銀ごとに「まちまち(mixed)」だったが、概して「改善し続けた(continued to improve)」。需要は全体的に「増加した(gained)」。金融状況は概して「変わらず(little changed)」、貸出活動は、ほとんどの地区連銀で「穏やか(modest)」だった。農業活動は「まちまち(mixed)」で、平年を大幅に上回る降水量と旱魃が影響した。エネルギーなど鉱業活動は東部の石炭セクターを除き、拡大を続け一部は高水準を維持した。

▽物価と賃金上昇圧力は抑制的、オバマケア絡みでのコスト上昇を懸念

雇用は12地区連銀全体で「控えめなペースで増加したか、あるいは横ばい(a modest increase or was unchanged)」だった。高い技術を有する従業員の雇用が困難との報告が、しばしば見受けられた。賃金と全般的な物価の上昇圧力は「抑制的(contained)」。見通しについては、多くの地区連銀が医療保険改革に伴う連邦政府の規制変更を通じた物価上昇に懸念を表明していた。

前回:物価と賃金上昇圧力は、あらためて「限定的(limited)」だった。

以上の内容を踏まえ、主なポイントは

1)経済全般の活動につき、「鈍化した」との報告が消える

2)消費支出は増加も、ホリデー商戦見通しは「期待しながらも慎重」

3)製造業の短期的な見通しは「楽観的」

4)住宅不動産市場につき前回の「緩やかな拡大」から「活発な改善」へ上方修正

5)貸出基準の緩和を報告

6)賃金・物価の上昇圧力につき前回の「限定的」から「抑制的」へ弱含みに修正。

足元の住宅指標に反し住宅関連を中心に全般的に明るい内容な半面、FOMCが注目するインフレは「限定的」から「抑制的」へ引き下げていました。サマリーの明るい内容とは対照的に、BNPパリバによると「弱い(weak)」という意味合いの言葉が前回の18個から29個に増加した点にも注目。長期的な平均の30に回帰しており、強弱ミックスな内容だったといえるでしょう。

もうひとつ忘れてならない米11月ADP全国雇用者数は、20万人を超える強い内容でしたね。連動して米11月雇用統計が高水準を達成すれば、即テーパリング開始につながるのでしょうか。これまでのFOMC動向を振り返ると、米雇用統計でQE縮小に踏み切る上で、以下の3点を覚えておきたいところ。

1)非農業部門就労者数の6ヵ月平均

3ヵ月平均をみると9月雇用統計時点での14.6万人増から10月は20.2万件増へ増えたが、6ヵ月平均では17.4万人増と、買い入れ縮小の地ならしを開始した5月時点の20.3万人増を下回っている。まずは「20万人」という数字を超えるかが試される。

2)失業率と労働参加率

10月FOMC議事録で失業率に加え「質的な条件」を追加するとの意見があった。これまで失業率は労働参加率の低下によって改善してきたとの見方は否めず、労働市場の実態を表していないと批判されており、労働市場の姿を見極める上で重要。

3)時間当たり賃金

インフレ動向とともに支出を占う上で重要なポイント。足もと数ヵ月にわたって時間当たり賃金は前年比で2%超と停滞から脱するものの消費は活発とはいえず、Fedが注目するPCEデフレーターもインフレ目標値の2%どころか1.5%を下回る水準であり、賃金伸び悩みはテーパリングを遅らせかねない。

サイバーマンデーやら、感謝祭明けの週末のホリデー商戦も1人当たりの出費額は前年割れでした。

米ADP全国雇用者数は確かに重要な数字ですが、ベージュブックで賃金と物価が「抑制的」と判断されていたことを踏まえると、やはり「12月テーパリング説」は厳しいように思われます。ダウ平均がADP全国雇用者数を受けて150ドル近く下落した後、小幅安へ切り返したのも頷けます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年12月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。