今週発表された10月分の貿易統計によると、電気機器の輸出は9712億円、輸入は1兆896億円と、初めて輸入超過になった。かつて世界を震撼させた日本の電機産業が、貿易赤字になったのだ。愚かな経済学者が「日銀がエルピーダをつぶした」といったが、大幅な円安になっても半導体産業は総崩れだ。
なぜこういうことになったのか。第一の原因は過剰品質と過少生産である。エルピーダのDRAMはサムスンより歩留まりが高かったが、コストも高かった。サムスンはコスト最小化という目的がはっきりしているので、必要以上の品質を追求しないで生産ラインに投資する。日本メーカーは研究開発に過剰投資して、生産体制が劣るためコストが下がらない。
第二は国際分業の遅れである。いま半導体業界でもっとも収益が高いのは、クアルコムやARMなどのファブレス企業と、TSMCのように製造に特化したファウンドリだが、日本メーカーはどちらにも特化できず、DRAMから撤退してSOC(System-on-a-chip)に参入したものの、すきま商品を乱造して収益が悪化した。
第三は官民プロジェクトの乱立による無責任体制だ。図のように、日本の半導体産業が苦境に陥ってから経産省主導で多くのコンソーシャムができ、業績の悪化した会社の合併が起こったが、状況はますます悪化した。
おまけにエルピーダやルネサスのように複数のメーカーの赤字部門が合体して合弁会社をつくったので、経営陣が「たすきがけ」人事になって出身母体の顔色をうかがい、ルネサスの最終決定はトヨタが実質的に行なうといった意思決定の混乱が致命傷だった。
本書は著者のコラムをまとめたもので、個々の指摘にあまり新味はない。このような欠陥は多くの経営学者が昔から指摘したことで、私も6年前に『ムーアの法則が世界を変える』で書いたが、日本の企業文化はまったく変わらない。
本質的な問題は、こんなわかりきった経営判断がなぜできないのかということだ。それは日本の企業が資本主義とは違う労働者管理企業だからである。これは成長しているときは労働者のモチベーションを上げる効果があったが、業績が悪化したとき不要な部門を捨てる「大きな意思決定」ができない。
おまけに経産省は官民プロジェクトで日本型システムを延命し、厚労省は正社員の既得権を守るために非正社員を労働市場から排除している。この官民に共通する「失敗の本質」を是正しない限り、日本の電機産業は全滅するだろう。