日米の著作権法の権威による講演会(その2:日本)

城所 岩生

12月7日、早稲田大学で開催された「著作権法学の将来」についての公開講座は、(その1:米国) で紹介したカリフォルニア大 パメラ・サミュエルソン教授の基調講演に続いて、中山信弘明治大学特任教授・東京大学名誉教授が「日本における著作権の制限規定と著作権法の理念」というタイトルの基調講演を行った。講演内容を筆者なりに要約し、注で補足する。


わが国著作権法における権利制限の構造

・従来は著作権の保護が第1であり、権利制限規定は厳格な解釈を取ってきた。デジタル技術の進展により著作権法と現実との乖離が生ずるようになり、現実に追いつくための頻繁な権利制限規定の創設との「いたちごっこ」になった。
・このため、権利制限の一般規定であるフェアユース規定の必要性が出てきて、検討した結果、2012年に著作権法が改正されたが、この改正はフェアユースとは逆の方向に進んだ。著作権法は刑事罰を伴うため、明確性の原則で、白黒はっきりしていなくてはならない。一方、フェアユースは将来何が起こるか分からない技術変化に備える規定なので、はっきりさせることができない。というわけで、明確性の原則のためにベクトルが逆に働いてしまったのである。

現在の著作権法の置かれる問題点

・著作物の創作・流通・利用の各側面で大きな変化が起きた。著作権のフィールドとプレーヤーが急速に拡大し、素人が著作権の世界に参入することによって混乱が生じた。プロ野球や大リーグのルールを素人の草野球にまで適用しようとすることによって生じる混乱である。駐車違反のように誰もが侵す恐れが出てきたにもかかわらず、著作権法には前科がつくため、1億総犯罪者になる恐れが出てきた。
・欧米ではフリーソフトウェア・クリエイティブコモンズ・ウィキペディアなどのコモンズの思潮が生まれた。2006年にスエーデンで生まれた海賊党は、欧州議会でも2議席を獲得。2012年には日米が主導したACTA(偽装品の取引の防止に関する協定)の批准を圧倒的多数で否決した。アメリカ議会でも2012年に Stop Online Piracy Act (SOPA、オンライン海賊行為防止法)が不成立となった。このように「ネットで反発されると著作権改正も実現しない状況が発生し、著作権を強化する動きとそれに反対する勢力との対立構造が先鋭化しつつある。

表現の自由と権利制限

・デジタル革命は産業革命に匹敵する大革命である。アナログ時代の著作権法は情報はプロが発信するという前提で作られていた。したがって、プロの創作を促すための法律であった。ところが、デジタル化によって著作物の創作方法や伝達方法に革命的変化が起き、素人による自己表現が可能となった。こうした状況下で著作権法が表現の自由を妨害しないための3点セットが、①存続期間の有限性 ②表現とアイディア二分論 ③適正な権利制限規定(なかんずくフェアユースの規定)である。

筆者注:①の「存続期間の有限性」は、日本では著者の死後50年、米国では70年とされているように存続期間をかぎっている。②の「表現とアイディア二分論」は、著作権法がアイディアは保護しないが、表現を保護することによって表現の自由を妨害しないようにしている。

著作権法の将来

・著作権の存在が窮屈と思う人が世界的に激増し、権利制限の必要性が増した。しかし、抜本的な改正が無理な以上、権利処理機関の充実・新しいビジネスモデルの模索などが重要になる。
・特にネット時代においては新しいルール・新しいプラットフォーム・新しいビジネスモデルの開発が重要である。機器を作るよりもルールやプラットフォームを作る方が大事になった。仲介者の役割が大事になったのである。昔から「そうは問屋が卸さない」という言葉があるように仲介者の役割は大きいが、その役割がますます増したわけである。著作権をいくら強化してもプラットフォーマーにはかなわない。プラットフォーマーに情報の首根っこを押さえられると、彼らのいうことをきかないとビジネスができないからである。
・資源のない日本は今後コンテンツビジネスで食べて行かなければならない。にもかかわらずコンテンツビジネスの成長率は世界平均にも及ばない。

筆者注:知的財産戦略本部「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会(会長 妹尾 堅一郎 NPO法人産学連携推進機構 理事長)」の第1回会合(2012年12月21日) 配布資料5 によれば、世界のコンテンツ市場は、年平均5.7%の伸びを示しているが、日本のコンテンツ市場は、12~13兆円で横ばい・縮小。国内市場は少子化で限界があることから海外収入比率を高める必要があるが、お膝元のアジアで先行する韓国のコンテンツ市場は、上記資料によれば年数%の成長を遂げている。

詳細は 「著作権法がソーシャルメディアを殺す」第7章 に譲るが、韓国はコンテンツの中でも波及効果の大きい映像コンテンツの輸出に力を入れ、韓流ブームを世界に巻き起こし、韓国製品の輸出につなげた。放送番組の海外展開にはネット配信権が不可欠だが、それも番組制作者が著作権者から映像化の許諾を得れば、二次利用に関して、あらためて許諾を得る必要のない著作権法改正でクリアーした。2012年の米韓FTA締結時には、米国の要求が著作権保護期間の延長など権利保護強化に傾いていたので、利用促進とのバランスを図るためにフェアユース規定を導入するなど、デジタルネット時代に合わせた法改正を行っている。

日米の著作権法の権威による基調講演に続いて、2人も参加して行われたパネルディスカッションの模様については(その3)で紹介する。

城所岩生